玄関先で男どもの嬉しそうな雄たけびが聞こえたかと思うと、ドアが開いて美人が二人現れた。
「こんばんは、千雪くん、お久しぶり」
ひらひらと手を振るのは、結婚式の前日に千雪に会いにやってきて以来となる、沢口江美子だった。
「江美ちゃん」
にこにこと笑う江美子は、髪を編みこみし、白いブラウスに白いスカートと楚々とした雰囲気もそのままに、菊子の話から受けたような薄幸な要素は見当たらないように思われた。
そして後ろに現れた、江美子より少し長身の、きりりとした瞳も涼やかな美人は、長い髪をおろし、水色のスーツがよく似合っている。
「ようきたな、桐島さん、久しぶり。卒業以来?」
「うん、久しぶり、ほんまに、変わってへんな、小林くん」
壁際にグラスを持って立ちながら、京助はそんなやり取りを眺めていた。
「あ、京助、綾小路京助、大学の一応、先輩」
「わあ、噂の綾小路さん? はじめまして、桐島です」
「はじめまして」
京助はにっこり笑う。
「どんな噂やら。こちら桐島さん、音大行ったんやろ? 今は?」
千雪はあらためて桐島に尋ねた。
「ずっとドイツにいてて、最近、ソロ活動し始めて、たまたま実家に戻ってたら、島田くんに、小林くん戻ってて、飲み会やるって聞いて来ちゃった」
京助はさり気なくグラスを二人に渡す。
「お飲み物は何にします?」
「あたし、ビール」
「江美子さんは?」
「あたしもビール。お久しぶりです、京助さん」
「元気そうだね?」
京助は二人のグラスにビールを注ぐ。
江美子は微笑みを返すが、わずかに溜息まじりなのを千雪は見て取った。
「まあまあ、お二人とも、どうぞどうぞこちらへ」
男どもが二人をソファへと促す。
すかさず井原は皿と箸をセッティングする。
「桐島さん、美人に磨きがかかったなぁ」
「あ、江美子さんももちろん」
「なんやの、それぇ」
桐島は男どもの賞賛に謙遜するでもなく微笑む。
江美子は隣でころころ笑う。
「せぇけど、江美ちゃん、そら千雪が久しぶりで帰ってきたよって、当然顔出すのもわかるけど、ええのん?」
島田が身を乗り出すようにして声を落とす。
「何が?」
「いや、その、ダンナ、ほっといてええん? 何や、いろいろと、なあ」
「おい、幸治」
島田をいさめるように隣の安川が睨む。
「ええんよ。この界隈で知らんものはおらんやろ? 店もほって、遊び歩いてるいうの。今夜もどこぞの誰かんとこちゃう?」
しれっと答えて江美子はビールを飲む。
「江美ちゃん、それ、どないなってんね?」
千雪は菊子の話もあって、確かめないではいられなかった。
「やから、家のための結婚やもん。お陰でうちの店も持ち直したし、役目は果たしてもろたから、ええんよ」
「そんなこと言うてなかったやん、あの時」
「そうかて、ほんまのこと書いたら、千雪くん、うちのお父ちゃんに問い詰めたやろ?」
「あたりまえや。おっちゃん、何考えとんね!」
「ええんよ、うちが納得したんやし。彼はちゃんと役に立ったんやから」
「役に立ったてな、江美ちゃん。結婚てそんなもんと違うんやない?」
「ほな、いっそのこと二人今度こそ、一緒になったらええ!」
しばらく、二人だけの世界を作り出している千雪と江美子を、周りは口を挟むことなく見守っていたが、島田が思わず口を挟んだ。
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