その例にあやかろうと制作側もドラマが決まった時点でSNSやネット対応に力を注いでいる。
「そっちは一応頑張ってくれてるみたいだぜ。広報の方が」
「でも、こう、キャストが入れ代わり立ち代わりだとやりにくいですよね~」
「だね~、とにかく良太ちゃん頼みだからよ、ま、そこんとこ、よろしく」
聞いていて調子よすぎるだろ、と良太は思わず心の中で突込みを入れる。
「そうだな~、あれ、最近ちょい売れくらいの、下手でもこう何か存在感ある、みたいな子いねぇかな~」
坂口は煙状のものを吐き出すが、蒸気だから、ニコチンやタールのような害はないし、臭いも悪くはない。
工藤もこれにしてくれたらまだいいのに、などと意識を飛ばしていた良太に、坂口がにやっと笑う。
「な、な、どうせなら、良太ちゃん、やってみねぇ? ちょうど俺のイメージにピッタリなんだよな、日下部なんかよりずっとよ」
「は?」
既に良太の中ではなかったこと事項に属していたので、坂口の言葉を咀嚼するまでしばし間があった。
「冗談でもあり得ません」
「ええーーー、絶対いいアイディアだと思うんだけどぉ~~」
良太の有無を言わせぬ回答に、べらんめえ転じて女子高生のような口調で、坂口はアームチェアの背もたれに腕をかける。
「それなら……」
本当に冗談じゃないと思いながら、ふと良太の脳裏に浮かんだ人物像。
「本谷和正とか、どうでしょう?」
口にしてから、何言ってんだよ、工藤に惚れてる奴なんか呼んでどうすんだよ。
とは良太の別の声が己に呆れている。
「本谷和正…? ああ、あの子な、顔だけで売れてるひよっこちゃん」
「あ、でも、何か若干芝居の雰囲気がよくなってきたって、ネットとかでは人気上がってて、まあ、ただ、事務所は結構本谷くん推してるし、スケジュールとか抑えるの難しいかもですが」
「ふーん、いんじゃね? 良太ちゃんの目の確かさを買っとくよ」
「とにかく、スケジュール次第ですし、ダメだったらまた他をあたってみます」
「ん、まかせる。大船に乗ったつもりでいるぜぇ」
結局のところていよく押し付けられただけだと、車のエンジンをかけながら下手なウインクをよこした坂口の顔を思い浮かべて、はあ、と一つため息をつく。
しかし、坂口からまたぞろ良太に演技をやれなどという、トンデモ発言が出たのを拒否りたいばかりに、つい、頭の中に引っかかっていた本谷の名前などを出してしまったことに、今更ながらに多少後悔もなくはなかった。
だが一方で、工藤にその印象を変えさせたという本谷和正に、何となくこの先また変わっていきそうな気配を感じたのも事実だ。
ひょっとして大化けしたりして。
右肩上がりの人気に実力が追い付いたら、もしかするとそれもないことではない。
「ま、とにかく、スケジュールだよな」
傾きかけた西日をまともに浴びて、良太はハンドルを思わず握りしめる。
夕方になってもエアコンをつけようと思わない。
車を走らせながら、街並みも通りを行く風までが暖かなの色を纏っているような気がして、少しばかり気分が高まるのを感じていた。
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