「よかったに決まってるだろ。さっきの見たろうが。ここについたのが朝だぜ? 十二分にいちゃいちゃしてたんだろ」
井上の生々しい発言に良太は思わず顔を熱くする。
「それよか、良太、お前の方はどうなん? いよいよ、工藤のオヤジを見限って菜摘ちゃんに走る? 菜摘ちゃんも不倫なんかしてるよか、良太の方が百万倍いいって」
「何ゆってんだよ、彼女と俺はなんでもない!」
ムッとして良太は喚いた。
「なんでぇ、結局、工藤にまるめこまれて、やられちゃったのかよ」
井上はにやにやと良太の顔を覗き込む。
「あんなオヤジのことは金輪際言うな!」
カッカきたまま良太は声を荒げるとグラスの酒を一気に飲み干した。
「おーっと、工藤のやろうルクレティアなんかにデレデレしやがって、良太ちゃん、もう許さないわよってか?」
「るっせーよ!」
さっきの工藤の態度を思い出すと怒りがふつふつと湧き上がる。
「まあまあ。仕事なんだからしょうがないじゃんよ。向こうの局でドラマ放映したいってんだからさ。しかし、こせこせしなくて結構豪快な女だよな、ルクレティア。あの若さで広報部のチーフやるだけあるって」
良太は井上の顔を一瞬凝視する。
「え、やっぱり向こうのテレビ入ってるのか? ドキュメントだけじゃなくてか?」
勘のいい井上は良太の切り返しに、そのことを知らなかったと悟る。
ひょっとして、工藤のやろう、後ろ暗いとこがあるから良太に言ってなかったのか?
「まあまあ、とりあえず、こっちのドラマも終わったし、ささ、ぐぐっといけ、ぐぐっと」
適当な言葉でごまかし、井上は氷を入れた良太のグラスに、コクコクと焼酎をそそぐ。
だが、そんなごまかしは良太には通用しなかった。
あのオヤジ、嘘つきやがって!
だからあれか、なるほどね、フン、何がうまく立ち回れ、だ!
怒りのままに、良太はさらに自棄酒を呷って、つぶれてしまった。
「しまったなあ。こいつはまた、オフィスに暗雲ってやつだぞ」
そんな良太を見て、井上はあらためて舌打ちした。
コテージを発つ前に、良太が千雪の携帯を呼び出すと千雪はすぐに出た。
どうやら電源を切るのはやめたらしい。
「俺たちこれから、東京に戻ります」
「気ぃつけて、また飲みいこか」
心なしか弾んだ声が返ってきた。
やはり京助との喧嘩はおさまったらしい。
井上とは羽田で別れ、五日ほど不在だったオフィスに戻ると、良太はとりあえずほっと一つため息をついた。
ずっとナータンの面倒を見てくれた鈴木さんに白神山地の野菜や山菜、お菓子などの土産を渡すと、鈴木さんは喜んで、お茶を入れてくれた。
良太と入れ違えに工藤は大阪に出張だ。
嘘つきオヤジ!
心の中で良太は毒づいた。
怒りというより、何だかひどく空しいのだ。
やっぱりあんなヤツ、嘘っぱちばっかだった。
もともと信じきれないなりにもどこかで信じたかった。
だが、今度こそもうダメだ。
「ってより、うまく立ち回れ、だもんな」
俺が誰かと女とどうなろうと工藤にとってはヘでもないんだ。
どうせ俺なんか、なんて、ほんとは口にしたくない。
「でもこれが現実だよな」
工藤とは何を約束したというわけでもないのだ。
諦めに似た境地で、良太はパワスポの打ち合わせに向かった。
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