ACT 4
「お疲れ様でした~」
スタジオを出たところで、良太に声をかけてきたのは花束を抱えた菜摘だった。
スタジオでの撮影も無事クランクアップし、良太もやっと肩の荷が下りたはずだが、どうも気分の方は上昇する気配がない。
「菜摘さん、お疲れ様でした。またドラマの打ち上げいらしてくださいね、お知らせしますから」
「ええ、あの、私、良太ちゃんに謝りたくて」
「え?」
良太は菜摘の真剣な眼差しを見て、休憩スペースに彼女を誘う。
「ほんとにご迷惑かけて、ごめんなさい。私、あれから安達とちゃんと会って別れたの」
「え、そうですか」
どおりで何となく晴れやかな顔をしているわけだ。
井上の言いぐさじゃないが、あんなやつとは別れた方が百万倍いいに決まっている。
「私、やっぱり奥さんを蹴落としてまで、安達となんて考えられないって思って」
菜摘はきっぱりと言った。
「最初は奥さんと別れるからとか言っておきながら、今度は奥さんとは別れるつもりはないけど、私は別だなんて言って、あんないい加減で嘘つきヤロウ、もうゴメンだし」
ふうっと大きく息をつくと、菜摘は続けた。
「明日からオフだし、心機一転、ヨーロッパにでも行こうかなって」
「いいな、存分にリフレッシュしてきてください」
「そうね~、良太ちゃんが一緒だと、もっといいんだけどな~」
じっとみつめられて、良太はドキ。
「いや、俺は、貧乏ヒマなしで………いいご旅行を」
「残念~、やっぱ傷心旅行だわ。じゃ、またね!」
足取りも軽そうだ。
千雪さんもうまく納まったみたいだし、これで彼女も大丈夫だろう。
きっと、もっと高みへ昇るに違いない。
千雪さんは、ね。
彼女は……ね。
嘘つきヤロウは、もうゴメン……か。
菜摘の言葉は、良太の心の中に深く残った。
「撮影、案外早く終わったな、帰ってナータンのご機嫌取りでもしよっと」
呟きながら駐車場に降りた途端、良太は息苦しくなるほどの熱気に大きく息を吐く。
八月もそろそろ終わりの東京は、残暑が続いていた。
それでも猛暑日と比べれば、一、二度気温が下がるだけでも過ごしやすさは格段に違う。
車が乃木坂の見慣れた通りに出ると、やがて灯り始めた灯りの中にオフィスを見つけて、良太は思わずほっとする。
いつのまにかあの灯りが、良太にとって帰るべきところになっていたことを改めて思う。
駐車場に車をすべらせ、ドアを開けた良太は、そこに工藤のベンツをみつけた。
工藤が帰っているらしい。
でも、あまり今は話したくない。
そんなことを思っている時に限って、工藤はオフィスにいて電話をかけていた。
ちょうど鈴木さんが帰り支度をしているところだった。
「あら、良太ちゃん、お帰りなさい」
「あれ、もう帰り?」
往生際も悪く思わず聞いてしまう。
「だってもう六時半よ。今日は別に何もないし」
「そっか、お疲れ様」
お先に失礼します、と工藤にも声をかけて鈴木さんは帰ってしまった。
良太は自分のデスクに座り、そそくさとパソコンを立ち上げる。
メールをチェックし、企画書は自分の部屋でやればいい、と、また電源を落とし、工藤が電話をしている間にオフィスを出ようと立ち上がる。
「おい、良太」
途端、工藤が電話を切って、良太を呼んだ。
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