まーったく! すぐああだもんな!
ぷりぷりしながらホテルの部屋に戻ってきた良太は、思わずベッドに蹴りを入れる。
ミラノでも超一流のホテルの一室。
一人だったら到底泊まるなんてこと考えもつかないだろう、広い寝室やリビング、それにバスルーム。
これでいわゆるデラックスツインだという。
バルコニーに出て、少し風にあたっていると、ようやく怒りも少しおさまってくる。
何を怒っていたかって、答えはひとつだ。
あのエロオヤジ!
今更ながらにイタリア語をもっと勉強してくればよかったと思う。
といっても、急遽こっちにくることになった良太に、イタリア語なんか習得する時間などなかった。
腹立ち紛れに、ここに帰る前に寄った店で買った、ミネラルウォーターの蓋を取ると、ボトルのままぐいっとあける。
暑いのでガス入りがスカッとするだろうと買ったのだ。
が……………。
ぷはーっと三分の一ほど一気にあけて、一息ついた良太は、喉ごし涼やかなはずが、何だか体が温かくなってくるのを感じて、思わずボトルのラベルに見入る。
「ひょっとして……これって…」
気がついたときはもう遅かった。
「そういや、あの店のオヤジ、何か言ってたっけ……、マジかよ~」
イタリア語で捲くし立てられて、買ったボトルの中身はスパークリングワイン、イタリア風に言えば、スプマンテ。
やがて、酔いが回ってきた良太は、寝室に行くと、ボトルをテーブルに置いて、ベッドに大の字になる。
「ちぇ、なんだよ~ぉ! くどーのばかやろ~」
声を大にして喚くと、眠気が襲ってきて、良太は知らず夢の世界に引き込まれていった。
ミラノにやって来たのは昨日だった。
最初から工藤と良太の間に隙間風どころかブリザードが吹き抜けていたイタリア滞在だったが、良太も仕事と割り切っていたし、加絵と工藤がいちゃつこうともう勝手にしてくれと思っていた。
仕事も終わり、ヴィラでの最後のパーティで悪酔いした良太は、やっと口を聞いた工藤に、加絵とよりを戻すのかなどとつい口が滑った。
しかし工藤に「昔の女が、お前に何の関係がある?」と冷たく言い切られて、良太はカッと頭に血が上り、さらに鴻池にドラマに出してやると言われたと言い放った。
それに対しても、工藤は「CMなんかに出たくらいで、思い上がるんじゃない」と怒鳴りつけた。
そこまで言われたら、さすがに良太ももう終わりだと思った。
別に工藤と付き合ってるわけではないから、あんたが誰とどうなろうと俺には関係ないさ。
仕事にしたって、価値がない上に、思い上がるな、だもんな。
ああ、わかりましたよ。
東京に戻ったら、運転手兼雑用係に戻るだけだし。
工藤にはデカい借金があるから、残念ながら、こんな会社辞めてやる! とやりたいところだが、それはできない相談なのだ。
にしたって、しばらくは工藤の顔なんか見たくもない。
すぐに東京に戻る算段をしていた良太に、秋山から、工藤と観光でもしてくるようにというメッセージが届いた。
どうやらアスカや井上と秋山は先に発っていたらしい。
それを知った良太は、ため息しか出てこなかった。
せっかくの秋山の計らいだが、もう工藤と一緒にいる気になれなかった良太はとっとと空港へ向かうべく部屋を出た。
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