アイスカフェラッテ、暑い夏の日にはぐいっと一杯、思わず、く~~~~~~~~~っつと言いたくなるくらい、とっても美味いんだけど…。
「OK! ちょっと休憩しよう。あとワンカットね、良太ちゃん」
ディレクターのその言葉に、広瀬良太はふ~~~~っとひとつ大きく息をつくと、撮影現場であるクルーザーのデッキからキャビンに飛び込んだ。
燦燦と照りつけるリヴィエラの太陽、絵に描いたような青い空と眩い海、たゆたう波。
のんびりとクルージングしているのなら、申し分ない状況なのだが、今のところ良太にはそんな情景を楽しむ余裕はなかった。
急遽CMのキャストに加わることになり、ローマでの撮影第一弾では、プラグインの河崎に散々罵声を浴びせられながら、息も絶え絶えに撮影を終えた良太にしてみれば、リヴィエラにきてからの撮影はしごく順調だったのだ。
最初は豪奢なヴィラの屋内で撮影したあと、このクルーザーでのカットを撮っているわけだ。
もちろん、一回でOKが出たわけではないが。
河崎達也は広告業界では一、二位を争う英報堂から独立して代理店プラグインを興した男だが、例えその英報堂では華々しい業績をあげてきたとはいえ、会社を立ち上げた当初はそうそう順調には行かなかったらしい。
それでも、手始めに青山プロダクションのタレント南澤奈々を使った菓子のCMをヒットさせてから、ボツボツと仕事が入るようになり、今回、鴻池物産の新商品カフェラッテの広告プロジェクトを一手に受けることとなったわけだ。
青山プロダクションの社長である工藤高広は、鴻池物産がスポンサーとなっているドラマをプロデュースし、自社所属人気俳優中川アスカをCMと同時にキャストに起用した。
何もかもお膳立てが整ったところで、アスカの相手としてCMに出演する予定だった若手俳優が怪我を理由に、突然出演を辞退してきた。
ここでCM撮影を遅らせるわけには、誰もが行かなかったが、いかんせん、かなりギリになってのドタキャンで急遽代役を探したが、そう簡単にイメージに合うようなタレントがみつからなかった。
そんな時、河崎の共同経営者、藤堂義行が、怪我をしたという俳優の代わりに良太を使おう、と言い出したのだ。
「こいつにそんな商品価値はない」
工藤は言語道断とばかりに一蹴したが、良太は工藤の、価値はない、発言に反発してつい、やる、と言ってしまった。
お陰で工藤とはろくに口も聞かないイタリア行となっている。
おまけに、このリヴィエラには工藤の高校時代のクラスメイト、しかも飛び切りの美女が待っていた。
いくら屋敷を撮影に貸してくれたとはいえ、やたら工藤にべたついているように見えるこのメリーウィドウ、加絵・ジョヴァノッティの存在は、良太にとってこの上ない不安材料なのだ。
俺って、何? コイビト、なんかじゃないよなあ。
それに別に何か誓いを立てたわけじゃないしさ~
にしたって、工藤のアホ、バカ、エロオヤジ!!
ま、そう…だよな、あんな美人が目と鼻の先にいたら、俺がコイビトなんてちゃんちゃらおかしいって思うよな。
何かにつけてポジティブな良太も、工藤のこととなると、どうしようもなく後ろ向きになってしまう。
あまりに工藤の周りにいる者たちが、タダモノでなさ過ぎるから。
推理小説家の小林千雪しかり、この加絵しかり。
加絵は人気デザイナーだというし、亡き夫の財も並大抵のものではない。
第一、俺、工藤に、デッカイ借金してるし~。
毎月の給料から返済分差し引いてもらってるはずだけど、返済が終わるのなんて遥か遠い未来のことで。
ハハ、笑っちゃうね、こんな俺、いい加減お払い箱にしたくなるだろうけど、負債があるからそうもできずってとこか。
なにせ、俺なんか、価値なんかない、んだもんな。
ちぇ、勝手に加絵でもあのルクレティアでも誰でもくっつけばいいじゃん!
大体、いい年なんだからな、工藤。
う~~~~~~~~~~っ!
考えれば考えるほどまたずずず~~んと落ち込みつつ、良太はテーブルに肘をついて頭を抱えた。
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