新宿通りに面した半蔵門にある七階建てのビルの二階が小田弁護士事務所である。
良太は一階の駐車場に車を停め、車を降りようとした時またポケットの携帯が鳴った。
今度はラインで、相手が波多野だと知ると、ドキリと心臓の音がする。
仕事上のやり取りに便利だからと、藤堂とともに波多野とラインの登録をしたばかりだった。
いくつかのファイルと画像が送られてきたが中に妙な画像が混じっていた。
案の定、仕事とは関係のない、夜、どこかビルから出てきた黒ずくめの男の画像である。
「何? これ……」
最後に波多野から、先ほど渡された書類への追加でという説明の間に、画像の番号と、事件のあった夜、工藤が部屋に行ったとされる一時間ほど前の時刻、スーツケースを引いてホテルに入っていく男、また翌日ホテルを出る男の画像について、男が事件のあった部屋の上の階にチェックインし翌日チェックアウトしたことを千雪が得た情報として小田にホテルの防犯カメラを調べさせろというような内容が追記されていた。
一時間前ってどういうことだ?
そこへバイクの音が近づいてきて、千雪が降り立つとヘルメットを取った。
「どないした?」
携帯の画面を睨み付けている良太に、千雪が声をかけた。
良太はその画像を千雪に見せると、波多野から説明を受けた話をした。
「これって、誰から?」
「例の男です」
「なるほど、わかった。俺のダチが集めた情報やいうて、小田さんに調べてもらうわ」
千雪は良太の言葉ですぐに察してくれたようだ。
ヘルメットをぶら下げて良太の後から階段を上がりながら千雪は続けた。
「こっちも、一つ妙な情報が入った」
「妙な情報?」
良太は聞き返した。
二人が小田の事務所を訪れると、所長室に通され、パラリーガルの遠野譲がコーヒーを出してくれた。
「工藤は元気だったよ。まあ面白くないのは当然だが、あの強靭な精神力の男だからな、今のところ否認と黙秘を続けている」
小田は言った。
「ところで一緒に行動していたのかい?」
「いえ、そこで会ったんです。千雪さんから何か情報があるらしくて」
良太は用意していた答えを口にした。
「殺された女性、松下美帆の付き合うてた友成陽介には別に女がいて、田口紀佳いうんですが、広尾でブティックやっててこの人、誰かに似てる思いませんか?」
千雪はタブレットに女性の画像を映し出した。
「ひょっとして、殺された松下美帆?」
良太は画面をのぞき込んで言った。
「そうや。同じブランドの派手な赤いワンピース、髪の色を変えて化粧濃くしたら、案外こういうはっきりした顔の人やったら、薄暗い中で同じ人間に見えますて」
千雪の説明に、小田は、「どういうことだね?」と訝し気に尋ねた。
「この女が、工藤さんが部屋に入ったいう時間の三十分とたたんうちに、ホテルから出てきよったみたいなんです。もちろん、服着替えて」
「ってことは、この女が松下美帆を殺した?」
良太は思わず声を上げた。
「いや、この女一人でやったかどうかわからん。こっちの男が共犯か知れん」
先ほど良太からラインで送られた男の画像を千雪はタブレットに映し出した。
「おそらくこの男や思うけど、事件の一時間ほど前、でかいスーツケース引いて、ちょうど事件のあった階のすぐ上の階にチェックインしとる。で、こいつは翌日チェックアウトしてったらしい」
タブレットにはどこかから出てきた男のアップと、その男がホテルに入っていく画像と、翌日チェックアウトしていく男の画像が映し出されている。
「しかしいったいどうやってそんな情報を知り得たんだね? 私もホテルのカメラは調べさせてもらったが、事件の前後くらいのものなので、残念ながらめぼしい情報は得られなかった」
千雪が説明するや、小田が難しい顔で言った。
「これはホテルの警備会社に潜り込んだダチの情報ですよって、もしこれを証拠の一つにするんなら小田先生に正式にこの情報を引き出してもらわんとあきませんけど」
千雪は良太から聞いた説明から推測した答えを口にした。
「そうか、わかった」
「こっちは工藤さんがはめられたいう前提で事件の起きたいう時間の前後を探ってますよって。警察はアホやから、工藤さんが犯人や決めつけて、そのあたりの時間のことしか調べてへん」
「うーん、なるほど」
小田は唸った。
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