平造が片付けているのだと、鈴木さんが言った。
小田はそんな良太に、刑事のやることにカッカきているより、今は真犯人を特定することに集中しようと言い、一つのシナリオが出来上がりつつあると語った。
「まず工藤の血液中から、フルニトラゼパムが出た。このことと工藤の衣服に返り血がなかったことが、工藤をすぐにも起訴に持っていけない理由のようだ。どうやら捜査一課でも、自分で飲んだんだろうなどと、すぐにもナイフの血液指紋で工藤を起訴したい連中と慎重派と意見が分かれているらしい」
「それってレイプドラッグってやつでしょうが。んなもん、自分で飲むかよ!」
良太は思わず声を上げた。
「それと今さっき谷川さんからまた連絡が入ってね。彼の昔の情報屋経由でわかったんだが、木戸が近々金が入るみたいなことを言いふらしていたらしいが、どうやら木戸をこの事件に引っ張り込んだのは刑務所で知り合ったらしい出水という男で、傷害で三回ほど刑務所を出たり入ったりのヤツだ」
「谷川さん、さすが! 問題は動機と何で工藤さんをはめたかですよね」
何とか憤りを抑えつつ、良太は言った。
最初はそれこそ家探しをしていった刑事同様、報酬以外会社や工藤に対していい印象を持たなかった谷川だが、ここにきて元刑事ならではという働きをしてくれていることに、良太は感謝しかなかった。
とにかく、名前が挙がったうち誰かが組とかに関係しているに違いない。
心の中で良太は考えていた。
波多野はもうそいつが誰だかわかっているんだろうか。
いずれにしても、誰だかがわかっても、そいつが真犯人だという証拠がなけりゃダメなんだ。
「良太くん」
小田はそろそろ帰るという時になって、また良太を振り返った。
「万が一の場合、工藤は会社は良太くんに任せると言っていた」
良太はすぐにはその言葉の意味を図りかねた。
「え、何ですか、それ」
ついつい良太は小田を睨み付けてしまった。
良太の中にまた怒りが沸き上がる。
それは工藤をはめたやつらというより工藤に対する怒りだ。
「言葉通りだ。感傷的になっているわけではない。実際、このまま真犯人が見つからなければ、起訴されて裁判になる可能性もあるからね」
良太は言葉もなく唇を噛んだ。
良太の肩をポンポンと叩いて小田が帰っていくと、良太はデスクでずっと考えていた。
「君は工藤の抱えている爆弾に等しい。以後、こういう考えなしのマネは控えることだな」
以前そんなことを言われた波多野にはまたしてもしっかと念を押された。
「万が一お前を盾にされたら、工藤さんは身動きがとれんようになる」
千雪にも同じようなことを言われた。
俺の仕事は、工藤が戻ってくるまで、この会社をしっかり守ることだ。
そんなことは重々承知だ。
工藤の仕事も秋山と二人でしっかりやっている。
クライアントやスポンサーにも工藤の不在を何とかごまかしている。
幸か不幸か、工藤が良太連れで訪問した先で既に顔を合わせている相手が多かったのは、有難かった。
いや、まさか、いざという時のことを考えて俺を?
そうだ。
何、バカなこと言ってるんだで済まされないのだ。
波多野だってスーパーマンもどきでもスーパーマンではない。
今回もこういう事態になると、対応に苦慮しているように思える。
もし工藤が起訴されるようなことになる前に、最終手段を取るかもしれないとか言っていたが。
工藤………
仕事はちゃんと順調だよ、今のところ。
クッソ! 万が一とか言うんじゃねぇよ!
鈴木さんが帰ると、良太は自分の部屋にそそくさと上がり、猫たちのお世話をしてから、クローゼットを覗き込んだ。
以前工藤の命で誂えたブランド物のスーツを着ると、髪形も滅多にやらないがジェルで前髪をかきあげるように整え、いつものリュックではなくかっちりしたブリーフケースを手に、良太は部屋を出た。
近所の眼鏡屋で度のない眼鏡を調達すると、鏡の中の良太はビジネスマン風に仕上がっていた。
俺だって変装くらいできるって。
千雪さんのあのヨレヨレコスプレには負けるけど。
その足で六本木にあるというクラブ『ベア』に向かった。
歩いても十分ほどで、店の前に着いた。
時刻は八時半。
大通りから細い通りを入ってすぐ、比較的新しいビルの三階が『ベア』だ。
よし、行くぞ!
気合を入れてビルに近づこうとしたものの、高級クラブなんぞに一人で足を踏み入れるのは、良太にとって至難の業だった。
つい、エントランスの前を通り過ぎてビルの横の細い通りに入ってしまった。
自販機の横でしばし情けない顔のまま、ブリーフケースを抱えて良太はため息をつく。
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