「接待とかだったら、ガンガン行けるんだけどなあ」
これでもスポンサーの接待で、ご希望の高級クラブとかくらい行ったことはあるのだ。
だがしかし。
「実は工藤ってこういう店、嫌いなんだよな」
以前秋山が、日本各地に工藤には知り合いのママがいる、なんて言ってたが、どうやらそれは仕事上の接待のためで、宴会もパーティも嫌いだということをここ数年の付き合いで良太はよく知っている。
宴会やパーティなんかはたまに良太も一緒に行くことがあったが、スポンサーの接待でもあまりしゃべりもしないし、いつの間にか良太を一人残して姿を消しているなんてこともざらだ。
俺を人身御供にしやがって!
それがクラブとかキャバクラとかなんて、特に要望がない限り行かないし、女の子を侍らせてわいわい酒を飲むってこと自体嫌っている工藤が、そんな店のママとどうこうなんて、俺のヤキモチを棚に上げたってあり得ない。
良太がビルに入ろうかどうしようかウロウロしているうちに既に十分ほどが経っていた。
その間にもいろんな人間が前や横を通り過ぎる。
目を引いたのがいかにもケバイ真っ赤なワンピースの大きくカールした長い髪の派手な頭のえらく背の高い女で、二度ほど近くを通り過ぎた。
顔はハーフっぽいかなりな美女だが、いかんせん背が高い。
ヒールはさほど高くはないから、実際はスーパーモデル並みに背が高いことになる。
この辺りはモデルや芸能人も多いから、彼女もモデルか何かなのかもしれないが、それにしてはケバイだけで、むしろあの美貌を帳消しにするようなファッションセンスだ。
ちぇ、俺だってこの業界で仕事してるんだ、そのくらいわかるって。
良太はしばしこの妙な女から目を離せないでいたが、エントランスに入っていく一人の男を見て、思わず声を上げそうになった。
「何で、藤堂さん?」
エントランスのライトで、その顔はくっきりわかった。
「え、何で?」
ややあって入れ替わるように男が一人出てきて、あたりをきょろきょろと見回した。
どう見ても人相がいいとは言えない、ブランド物のスーツが浮いている雰囲気の男は、クソと舌打ちしてまた中に戻っていった。
「………もろ、下っ端ヤクザって感じだな………」
この手の店はバックに反社会的勢力がついていることが多いとはよく聞く話だ。
「あ、あれって確か、出水とかいう……?!」
はたと気が付いた良太は、ポケットから携帯を取り出して、小田が置いていったデータから男の画像を表示した。
「出水博則。元は石尾不動産いう会社の社員や」
いきなり背後から聞いたことのある声がして、振り返った良太は思わず声を上げそうになった。
寸でのところで口を塞がれたものの、目の前にさっきから目にしていた真っ赤なワンピースの女を認めて良太は目を見開いた。
「クラブベアのチーママ、今はママになった清水美咲と付き合うとる。石尾不動産は表向きカタギの会社やけど、社長の石尾健斗はW大出の所謂インテリヤクザいうやっちゃ。島本組系列らしい」
「やっぱり! ってか何ですか、そのコスプレ!」
「うるさいわ! こんなん最初で最後や」
ついニヤついた良太は、パシッと頭をはたかれる。
「ってぇ! 千雪さんてやっぱ乱暴!」
「うっさい! ったくあれだけ、仕事だけやっとき、言うたのに」
「仕事はきっちりやってます! 今日も撮影ありましたし、『からくれないに』」
まさかという女の正体に今更ながら納得し、頭を撫でさすりながら良太は言い返す。
「あそ。ま、お前がおとなしゅう動かずにいるとは思わんかったけどな」
「それより、何してんです? こんなとこで、超地味ないつもとは真逆に派手なコスプレして」
二人は自販機に隠れるようにこそこそ話を続けた。
「手っ取り早く、手りゅう弾投げ込んだったんや」
「しゅ、しゅりゅう……!!!!」
驚いて声を張り上げそうになったのをまた千雪に口を塞がれる。
「アホ、声でかい! 例え、比喩、寓意や。関係者に『お前のしたことを知っている』て、新聞切り抜いた文字張り付けて、封筒ポストに放り込んだんや」
「封筒………また、ベタな………」
「眼鏡とかベタな変装しよるお前に言われたかない」
うっと良太は言葉に詰まる。
どうせ変装とかできないですよ。
まあでも、デジタルな世の中だからこそ、そんなベタな脅迫状もらったら、ちょっとぎょっとするかも。
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