「ですよね~、ガチな変装っすよね~今夜の千雪さん。で、そのナリで乗り込むつもりだったんですか?」
良太は一応頷いてから聞いた。
「アホいいな。こんなバカでかい女が、店強襲してどないする?」
「確かに。俺さっき、美人だけどすんげーでかいって思いましたもん」
「さすがに男やのうて女やろ、言われ続けた俺でも、ほんまに女装なんかしたらこないなるんや」
やけっぱち気味に千雪が言った。
「まあ、でもほら、モデルとかでかい人多いし」
「慰めにもならん。さっきの男出てきてキョロキョロしとったやろ?」
「あ、出水とかってチンピラ風なやつ!」
「真っ赤なワンピースの女が店の外でうろついてるて、誰かが知らせたんやないか?」
なるほど、と良太は合点する。
「陽動作戦ですか。そういえばさっきの男、結構必死な形相してたかも」
やはりつつけば何か出てくるということか。
「にしても、今夜この界隈、青山プロ関連の人間の人口密度高いな」
「は?」
良太はまともに千雪の化粧した顔を見つめた。
赤いルージュといい、マスカラといい、派手だがものすごい美女ではある。
「やから、プラグインの藤堂さんとか入ってったやろ?」
「あ、それ! 何でって思ったんです。まさか藤堂さん、どこかから工藤のこと」
「まあ、あり得ないことやないけど。それより、佐々木さんとこの直ちゃん、その前にえらいバッチリなメイクで店入ってったで」
「うそ!」
それは想定外だ。
「でかい声出すな言うたやろ!」
「何で………」
いや、直子のことだ、もし工藤の事件のことを知ったとしたら、俺らと同じようにはめられたとか考えて、すぐに動く可能性大だ。
藤堂も店に入って行ったということは、二人共謀しているとも考えられる。
まあ、藤堂ほどの男なら、こんな高級クラブに入って行っても、貧相な平社員くらいにしか見えないだろう俺よりは値踏みされてお門違いだとか見られることもないだろうけど。
「藤堂さんあたりなら、こんな店顔出してもおかしないか知れん。俺や京助なんかちょっと難しいからな」
「え、京助さんがどうして難しいんです?」
「俺をすっとばしよったな? まあええ。京助の場合顔が知れてしもてて、あいつも変装とかでけんやつやし」
千雪はムッとした顔で続けた。
「ああ、なるほど」
世間では名探偵コンビなんて言われたりして、しかも女性関係では派手にスクープされたりしている御曹司京助が顔を見せたら、店の連中はたちまち構えるだろう。
「良太、藤堂さん呼びだせへんか?」
千雪が言った。
「え? そりゃ、呼び出せると思いますけど」
「ちょっとこっち、来い」
千雪は良太の腕を引っ張って、しばし歩いたところに停まっている黒いバンの運転席をノックした。
すると後ろのドアがスライドして開いた。
良太は千雪に引っ張られるまま、車に乗り込んだ。
「ダチの辻誠と加藤雄太」
千雪は運転席のガッシリした硬派っぽい男と、ナビシートの今時の若者風な顎髭の男を良太に紹介した。
「で、こいつ広瀬良太」
「どうも」
良太がぺこりと頭を下げると二人の方も無言でちょっと頭を下げた。
「実は店に潜り込ませよ思てるやつ待ってるねんけど、今会社出たとこやて言うし、藤堂さん入ってったんなら話が早い」
「これ」
千雪の説明では何が何だかわからなかったが、ナビシートの加藤が手の平に乗せたものをみて、良太も納得がいった。
「先手必勝やからな、何ごとも」
良太は携帯で藤堂を呼び出した。
「はい、藤堂です」
良太に対するいつもの藤堂らしからぬ、よそいきの口調だ。
「今、ベアに入っていきましたよね? 俺も実は店の外にいてお願いしたいことがあります。出てこられますか?」
早口に説明した良太に、「ああ、その件ですか、少々お待ちください」という藤堂の声が聞こえ、二分と経たないうちに藤堂がビルの外に出てきた。
「右手の通りを奥へ行ったところに黒のバンが停まってます」
藤堂は足早にやってきて、あたりを見回してからドアが開いたバンに乗り込んだ。
「おお、良太ちゃん、車で秘密組織とか?」
中のメンツを見回すと、今一つ張りのない声で藤堂は言った。
やはり目はどぎつい恰好の千雪に止まる。
「すみません、お呼びたてして。名探偵とその仲間たちです」
良太が紹介すると、「うお! もしや、名探偵の変装!」と、藤堂は声を上げる。
