「今、京助の車で、千雪と誠と良太が女の子を乗せた車、追ってる」
加藤はかなりハイスペックのパソコンを操作しながらそう言った。
「一緒に店についてきていながらとんでもない失態だ。大事な娘さんだからね、俺も追いかける。何かあったら、携帯でもラインでも呼んでくれ。よろしく頼む」
万が一のことなど考えたくはないが、もし、彼女に何かあったら、家族にも佐々木にも顔向けできない。
藤堂は悲痛な面持ちで、車を降りるとタクシーを停めて北青山にある自分のマンションへと向かった。
時刻はそろそろ十時を回ろうとしていた。
京助のレンジローバーは男たちが直子を拉致して走っている黒のセダンとそれを追う啓が運転するグレーのスカイラインを追って中央道を走っていた。
やがて八王子ICから一般道へ降りると、昭島方面へと進む。
「さっき、直ちゃんの携帯から送られてきた会話、よう聴き取れんかったけど、山に埋めた女とか、一緒に埋めた赤いドレス、とかなんとか、言うてたよな」
しばし無言でタブレットで直子のGPSにアクセスしつつ、何か探していた千雪がそんなことを口にした。
「血だらけとか言ってた気がする。ひょっとして松下美帆を殺した田口紀佳の返り血の付いたワンピースのことじゃないですか? 着替えて部屋出たんだ! きっと」
良太は言った。
「かもな、木戸って男より田口って女の方が思い切りよさそうな顔しとるし」
千雪も同意した。
「それにこの記事、気になるんや。もう二か月も前やけど、あの店の女の子が一人行方不明になってるて。伊庭さとみいう子が帰ってきいへんて、一緒に住んどった女の子が警察に失踪届け出したらしいけど、警察が一カ月経っても何も動かへんよって、怒ったその子がSNSで発信したらしい。六本木署、こんなとこでも叩かれとおるわ」
「あの店の女の子なんですか?」
良太は怪訝な面持ちで千雪に聞いた。
「せや。気にならんか? 山に埋めた女、とか聞こえたやろ?」
「あ………まさか……」
「なんや、推理小説いうより、三流サスペンスドラマの展開になってきたで」
千雪は面白そうに言う。
「面白がらないでください」
こんな時に、と良太は思うのだが。
「せえけど、もうシナリオはできてるで。つまり、店の女の子が何か、出水あたりのことで見ちゃいけないものをみたか、でなきゃそれをネタに出水を恐喝して逆に殺されたと。ほんでそれを見たのがママの松下美帆や」
小説家は見てきたように話す。
「殺人を見た美帆は出水に口止めされるが、実は美保の男友成陽介は田口といい仲になってて、美帆が邪魔になっている。ママの座を狙っていたチイママ清水美咲も美帆が邪魔で、出水はスポンサーの友成に頼まれて今回の事件を計画する」
「せえけど、何でそこに工藤が出てくるんや」
千雪の隣に座っていた辻誠がフンと笑う。
「それは多分、こないだのあれじゃないですか。うちのドラマ撮影中に、本谷のファンが溢れそうになって俺がぶっ倒れたところへ、ちょうど工藤が現れた、っていうような動画が、SNSで拡散されたんです」
辻の疑問に良太が答えた。
「こいつなら、狂暴そうだって顔で、きっとそれを見たんですよ、出水とかが」
「それよか、出水、石尾不動産の元社員やろ? 表向きカタギに見せとるけど島本組系列で、社長の石尾ってインテリヤクザが工藤を手っ取り早く始末しよう思たんやろ。組同士のいさかい絡んどるんやないか」
ちょっと知っている者なら、やはりすぐ辻のように関連付けて考えるのではないか。
波多野は何とか、組の抗争から切り離した答えを用意したいようだったが、そううまくいくとは思えない。
しかし千雪の話した内容が、満更フィクションではないように良太にも思えてきた。
ドラマなどではそんなシーンもいくらもあるだろうが、実際にもし、山中に女の子の死体が埋まってたりしたら。
良太はぞわっと背筋が寒くなった。
それにしても松下美帆が殺されたことといい、そんなに簡単に人を殺したりできるものなんだろうか。
良太は千雪に渡されたタブレットでじっと直子の携帯のGPSを追いながら、波多野はやつらのことを知っているのだろうかと思う。
いや、こっちが出水から石尾に辿り着いたんだ、波多野ならもうとっくに知っているに違いない。
だったら、何とか直子を助け出してくれないだろうか。
普段不信心な良太だが、神にもすがる思いで、良太は直子の無事を祈り続けている。
この際、キリスト様、仏様、波多野様だ!
ああでもあの人、工藤絡みなら手を出すけど、どうなんだろう。
胡散臭いよな。
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