「……お前のところにも来たのか」
「気味が悪いぜ。俺のやったことを知ってるとか、差出人が赤いドレスとか書きやがって、チクショ!」
「さっき、店の外を赤いドレスの女が歩いてるって誰かが言ってやがって、俺が見に行くといねぇ。そしたらまた、店の子が赤いドレスの女がうろついてたとかって、行ってみるといねぇ。人をおちょくりやがって!」
「……何か俺、怖くなってきた。大丈夫なんだろうな? 山に埋めた女とか、まさか一緒に埋めた赤いドレスじゃねぇだろうな? あの女の!」
「ばーか、ありゃ、血だらけで使いもんになりゃしねぇだろうが!」
いつの間にか直子は男たちの方へ近づいて、その会話をはっきり聞いてしまった。
さらに会話はワイヤレスマイクを通してガーターベルトに忍ばせた携帯で呼び出した良太の携帯にある程度は流れているはずだ。
髪を耳の上に垂らしておけば、ほとんど気づかれることはない。
赤いドレスの女が店の外をうろついている?
あ、そういえば、チラッと見た気がする。
直子は頭を巡らせる。
差出人ってことは、こいつらを郵便か何かで脅したやつがいる?!
一緒に埋めた? 血だらけの赤いドレスを?
え、山に埋めた女って何?
直子の脳裏をいろいろな疑問が現れては消えた。
ところが、気が付くと今こそこそ話していた男だろう人相の悪い顔が直子を睨み付けていた。
「ここで、何をしている」
直子は一瞬頭が真っ白になった。
「あの、私、新人で、お化粧直しをしようと……トイレ、どこでしょう?」
にっこり笑って見せたが、悪党面の男には通用しないようだ。
「何だよ、この女」
もう一人の男もチンピラ風な、あまりまともな表情をしていなかった。
「新人だとよ。お前今の話、聞いたな?」
悪党面の男は凄むことはなかったが、目つきが危ない色をしている。
咄嗟に直子はあらゆる言い訳を考えてみた。
「え、すみません、赤いドレスとか、聞こえましたけど、それが何か?」
すっとぼけて見せた。
「携帯、出せ」
直子はバッグから、新しい携帯を取り出した。
すると、男は引っ手繰るようにその携帯を取り上げた。
「え、あの………」
どうやらすっとぼけは通用しなかったようだ。
「おい、多摩までドライブに行くぞ。この女も連れて行く」
男は直子の手首を掴んだまま、奥の方へ歩いていく。
直子の後ろをチンピラ風な男がついて来る。
二人は直子を連れたまま裏の通用口から出ると、近くに停めてあった黒のセダンに乗り込み、直子はチンピラ風な男と後部座席に押し込まれた。
と思うや、車は六本木通りから首都高に入った。
案外直子は落ち着いてはいたが、いったいこの先どういう展開が待ち受けているかとかは考えたくはなかった。
良太ちゃん、ちゃんとGPS追ってきてよね!
心の中で、直子は良太に叫んだ。
いつぞや佐々木が拉致された事件の際に、携帯のGPSアプリのことなど、藤堂や良太と話したことがあった。
直子からの電話が入り、最初は意味不明の、そのうちそれがどうやら男たちの会話らしいことに気づいた良太は、携帯をスピーカーにした。
「やばいやばいやばいやばい! 直ちゃん、連れていかれた!」
良太の方がパニクっていた。
「落ち着け、良太。今しがた、店の裏を張ってた啓から、男二人が女の子を車に押し込んで走り出したから追跡するって」
さっきから後ろの方で千雪がごそごそやっていたのは真っ赤なドレスを着替えていたらしい。
だがまだ素晴らしいメイクはそのままだ。
「直ちゃん携帯に入れてるんでGPSアプリ、俺の携帯で追えます! すぐに車出してください!」
良太は何とか自分の動揺を抑えて言った。
「ちょっと待て、別のとこ張ってた車、来るから、そっちに乗り換えるぞ。この車より速いやろ」
千雪が言う通り五分ほどして現れたのは、黒のレンジローバーだ。
案の定、運転席から京助が顔を出した。
「早く乗れ」
辻と千雪が後部座席に、良太がナビシートに乗り込むと、車はすぐに走り出した。
高速に乗ると、京助はアクセルを踏んだ。
「千雪さん、俺の携帯、直ちゃんのGPS追ってるんで、携帯貸してください。藤堂さんに連絡入れないと」
携帯を良太に渡した千雪はようやくメイク落としでド派手な化粧を落としたところだった。
「あ、藤堂さん、落ち着いて聞いてください、直ちゃん、男二人に拉致されて、今彼女の携帯のGPS追って、首都高に乗ったところです。さっきの車、まだいますから、そこで詳しいこと聞いてください」
「わかりました。ではまた後程」
藤堂は動揺を抑えて携帯を切ると、早々に店を出た。
「すまないね」
バンのウインドウをノックすると、加藤がドアを開けてくれた。
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