それから工藤と良太は、工藤がいなかった間の状況報告と、仕事の確認、それとこれからの仕事のスケジュールのすり合わせに没頭した。
やがてアスカを伴って秋山がやってくると、秋山がいつも通りの顔で打ち合わせに入り、アスカはお気に入りのパティシェリで買ってきたケーキをみんなに配りながら、ちょっとだけ目がウルウルしているのに良太は気が付いたが、何も言わなかった。
「あ、やっと娑婆に出てきたんだ、おかえりー社長」
賑やかに登場した小笠原はそれでも工藤が出てきたと聞いて、次の撮影に向かう途中でオフィスに寄ったらしい。
のんびりケーキにかぶりついている小笠原を、真中が「もう時間ありませんて」とせかしてオフィスを出て行った。
いつものごとくあちこちから電話が入り、あちこちに電話を入れて、アポイントを取り直したりしているうちに、時間が来て鈴木さんは帰っていった。
「社長、上の部屋に食事を用意しましたんで、二人で食べてください。わしはこれで軽井沢に戻ります」
入れ替わりに入ってきた平造がそう言ってまたオフィスを出て行こうとした。
「え、これから帰るんですか? もう暗くなるし、今夜は泊って行けばいいじゃないですか」
慌てて良太が引き留めた。
「いや、ちっさいが畑もありますしな、吉川に任せっぱなしだし、あいつも自分の店がありますからな」
馴染みのリストランテのオーナーシェフ、吉川と平造は案外長い付き合いで、料理や野菜のことで話が合うようで、平造がぎっくり腰をやった時にも世話を焼いてくれた。
「着いたら電話しますんで、冷めたらチンして食べてください」
「わざわざすまなかったな」
工藤が平造に労いの言葉をかけた。
良太が一緒に駐車場まで行くと、平造はグレーのバンに乗り込んだ。
「気を付けて。ちゃんと連絡下さいよ」
「社長のこと、よろしく頼む。食事は三人分くらいはある。良太も痩せただろう、しっかり食べなさい」
「はい、ありがとうございます!」
平造の車が出ていくのを見送った良太は、オフィスへと取って返した。
工藤はまだ電話中だったので、七階に上がると、良太は工藤の部屋を覗いてみた。
「うわ、すげ」
ダイニングテーブルには、二人分のディナーがセットされていた。
洋ナシと生ハムのサラダ、ジェノベーゼのパスタ、牛肉のタリアータ、鍋にはメバルやイカのブイヤベース、ワインクーラーにはワインが冷えているし、冷蔵庫を見るとパンナコッタがグラスに五個ほどが並んでいる。
「パスタと肉は食べる時あっためよ」
良太は何となくウキウキとオフィスに戻ったが、工藤は自分のデスクでまだ難しい顔をして電話をしていた。
メールチェックをして翌日のスケジュールを再確認すると、良太はパソコンの電源を落とし、デスクの上を軽く片付けた。
「食事いつにしますか? 平造さんせっかく作ってくれたんだし」
「七時でいいだろう。あと何件か片付けとくことがある」
やっと受話器を置いた工藤に尋ねると、工藤はそう言ってすぐまた鳴った携帯に出た。
「じゃ、俺、準備しときます」
七時ならまだ三十分ほどあった。
良太は自分の部屋に上がり、猫たちのご飯をやったりしてから、シャワーを浴びてジャージに着替えると、いそいそと工藤の部屋に向かう。
冷蔵庫には翌朝用にサンドイッチも作ってあった。
「俺なんかついでにご飯にありつけて、ラッキーってとこだよな」
冷凍庫には、冷凍しても美味しいだろうおかずの袋がいくつか作り置きしてあった。
「平さん、さすが」
口数も少なく、工藤が帰るまでは部屋を掃除したり、裏庭の草むしりをしたりしてじっと待っていた平造だが、やはり一番工藤のことをわかっていて、気がかりだったろうと、良太は平造の胸の内を慮る。
「そういえば、まだ俺、千雪さんとかにお礼とか言ってねぇや」
今日は工藤が戻ってくることで手一杯で、それ以外に考えることもできなかった。
冷蔵庫の前でぼんやりしていると、ドアが開いた。
「あ、ご飯、食べますか?」
「ああ。風呂入ってから」
「じゃあ、上がったらあっためますね」
そうだよな、ゆっくり風呂くらい入りたいよな。
良太は留置場など居心地悪いだろうし、風呂とかトイレとかも、と考えて、オフィスにたまたまやってきた平造に聞いたことを思い出した。
「トイレは中にあるが、他に人がいりゃ使いづらいな。風呂も三日にいっぺんくらいだ」
それを聞いていたので、工藤もかなりうらぶれているのではと思ったのだが、案外清潔そうだったし、釈放が決まった時に小田に衣類などを持って行ってもらったので、スーツもビシッと髪も撫でつけてほぼいつもの工藤だった。
バスローブで楽に食事ができるのも容疑が晴れたからこそだ。
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