好きだから10

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 テーブルにはフィンガーフードやスイーツが並び、オレンジ色のかぼちゃ型のランプやかなり存在感のある魔女の人形や羽を広げた蝙蝠などがここかしこにディスプレイされている。
「しかし、この夜景はあまり見たくない気がしないか? 浩輔ちゃん。古巣に戻ったような気分にさせられる」
「はあ、確かに………でも、藤堂さん、何でこのホテルに? しかもこんなスイートよく押さえられましたね? 昨日の今日で」
「巷で大騒ぎのハロウィンとは一味違うクールさを演出したんだ」
「はあ」
 また藤堂のオブラートに何重にもくるみまくったような言い回しに浩輔は適当に相槌を打つ。
「なーに、河崎の名前をちょっと借りてね。やつのじいさん、このホテルのオーナーと懇意だってから」
 河崎は藤堂や浩輔が籍を置く広告代理店「プラグイン」の代表だが、今日はスタジオで撮影に入っている。
「なるほどぉ。今日は悠ちゃんは?」
 藤堂の同居人で画家である悠は、こういうイベントがある時大抵助っ人に来てくれるのだが。
「作品展の準備で忙しくてとても近寄れないよ、今は」
「そっか。それにしても昨日の今日で、よくこんなに芸能人集まりましたね」
「みんな面白そうなことに飢えてるのさ」
 笑いながら浩輔はウォーターフロントの夜景から室内へと視線を移した。
「万里子さん、スパイダーメイクすてき!」
「ありがと。あら? アスカちゃん、彼は? 何か堂々と車寄せからカップルで見せつけてくれたけど、いつの間に付き合ってたの?」
 黒の総レースのシックなドレスを纏った小野万里子はさりげなくこめかみにスパイダーメイクを施している。
「付き合ってないよ。お友達。部屋に寄ってから来るって。彼、このホテルに住んでるの」
 アスカはさらりと答える。
「ああ、沢村? けど、車寄せんとこお前らタクシーから降りた時、どっかのマスコミ張ってたぞ。ぜってぇスポーツ紙とか出るんじゃね?」
 そう心配そうに言ってくれたバットマンTシャツの男は万里子の夫、井上俊一だ。
 青山プロダクションの嘱託カメラマンである。
「出たらあたし、久々のゴシップネタ?」
「そんな嬉しそうに言わないでください」
 むしろ面白そうに笑うアスカに横やりを入れたのは、黒いスーツに胸元にネームプレートらしきものをつけた秋山だ。
「やだ、秋山ちゃんじゃない、てっきりここのホテルの人かと思ったわよ、同化し過ぎ」
 山内ひとみが彼らの会話を聞きつけて割り込んできた。
「私はパーティの準備をしていたので、これでいいんです」
「もう、須永ちゃん、黒タイに黒スーツに黒靴下ってねぇ、秋山ちゃんを見習ってちょっとはコスプレして楽しみなさいよ、お通夜みたいじゃないの」
 傍らに立つ須永はひとみのマネージャーで、この大女優に振り回されながらもよくついていっている男だ。
「そんなこと言われても、ドレスコードは黒をベースって………」
 須永は口を尖らせてブツブツ言った。
「チーフをアクセントにするとか、そういうちょっとした機転が大事なのよ。だから彼女に振られるのよ」
「ほっといてください。だったらヤギさんなんかいつものまんまじゃないすか」
 ひとみは金田一耕助もどきと話している髭面のもっさり男を見やってケラケラ笑い出した。
「ヤギちゃんなんか、いつもがゾンビだからいいのよ」
「何か、すごい言われようだね、ヤギさん」
「おう、ひとみの御託をいちいちまともに聞いてたらキリがねぇ。藤堂さん、焼酎はねぇが、ポン酒はなかなかいけるな」
「そりゃよかった」
 その時ドアチャイムが鳴った。
「やっと真打登場ですね」
 藤堂のからかいに少しむっとした顔つきで入ってきた大きな男は一瞬であたりを見回した。
「あら、カッコいいじゃない、沢村っち! 黒執事!」
 テールコートに蝶ネクタイの沢村は迷わず窓際にいたゴスロリカップルの方に足を向けようとして、アスカに阻まれた。
「アスカさんがくれたコスプレだろ」
 沢村はニコリともせずに返した。
「うん、サイズもぴったし! 知り合いの衣装係さんに頼んで一晩で用意してもらったんだよ」
「まさか本物の沢村選手に会えるとは思わなかった。子供の頃から関西タイガースファンなんです、母が神戸出身だから」
 アスカの後ろからそう言って近づいてきたのは小野万里子だった。
「はあ、どうも」
 意識が窓際にあるので、美人俳優の出現にも沢村の答えは相変わらずそっけない。
「何だよ、万里子、聞いてねぇぞ」
 だが後ろから身を乗り出してきた俊一は面白くなさげだ。
「だって言ってないもの」
「おい……」
「まあまあ、お二人とも、こんなところで開戦しないでくださいね」
 藤堂がシャンパングラスを持って割って入り二人に渡す。
「似合ってるよぉ、沢村っち! おっきい執事さんって感じ」
 そわついている沢村の元へ、ゴスロリのカップルの方から近づいてきた。

 


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