ACT 3
十月末日、都内某老舗ホテルのロビーラウンジはいつもより賑わいがあった。
夜のロケーションが評判のカフェバーではハロウィンにちなんだ特別メニューやスイーツを味わえるとあって、女性客やカップルがきりもなく訪れていた。
しかもハロウィン当日となるとただ着飾っているだけでなく、奇抜なファッションで現れる客も少なくない。
そんな中、大胆にスリットが入った黒のロングドレス、黒のヒール、黒のリップというコスチュームに身を包んだ美女が大柄の男と腕を絡めてエントランスから上がってきたエレベーターを降り立った。
栗色の豊かな髪はふわりとアップにして、シャープなメイクははっきりしたヨーロッパ系の顔立ちによく似あっている。
美女が男を見上げて囁きながら笑った。
「ねえ、あれ、中川アスカじゃない?」
「え、女優の? うわ、何、彼氏? 誰、誰?」
ロビーラウンジでお茶を飲んでいた女性客が彼女に気づいて傍らの友人に声をかけた。
やがてラウンジの他の客も中川アスカに目をやった。
すると彼女たちの声が届いたかのように、男がサングラスを取った。
「うっそ、あれ、沢村じゃない?」
「え、誰? めちゃカッコよくない?」
「関西タイガースの沢村よ、知らないの?」
あちこちで二人を認めてひそひそ話し合っている。
「うお、沢村じゃん」
「ウソ! 沢村ってこないだ、どっかの令嬢と結婚とか言ってなかった? あたしもう、超、悔しくて!」
「バーカ、沢村がお前なんか相手にするかよって」
「ひっど、何よ、それぇ」
カップルがもめ始め、どこかで携帯が二人のショットを撮っていたが、二人は腕を絡めたまま客室用のエレベーターの方へと歩いて行った。
程なくしてスタイリッシュな着こなしだがデッドマンメイクの男女入り混じった欧米人グループがロビーに現れ、客室用エレベーターへと向かう。
それからまたエレベーターのドアが開き、小野万里子、小笠原裕二と俳優陣が続く。
小野万里子をエスコートしている業界人らしき男と警官コスプレの小笠原は親しげに笑っている。
その後ろから大御所俳優山内ひとみまでが胸元が大きくあいた黒のロングドレスに身を包み、若い男と髭面の男を従えて現れた。
「なーんか、きっと業界関係のハロウィンパーティよね。いいなー、あたしも混ざりたい!」
「お前が混ざれるか!」
さらに今度はまた黒ずくめの一団が現れ、周囲の注目を一気に浴びる。
「きゃっ、誰? ゴスロリ女の隣のミリタリー、すっごいきれーくない? 男だよね?」
「マントに袴の子もすっごい美形! え、モデル? 俳優とか? あんな子いた??」
「隣のデカい人、どっかで見たことある」
ミリタリー風なゴスロリコスチュームのカップル、チューリップハットに袴にマントと草履という金田一耕助コスプレの美形の横にはジェダイそのままに睨みつけるような表情の男がフード付きマントを羽織っている。
すると時間差で別のエレベーターが開いてハリーポッター風ローブを着た若い男が、シルクハットに燕尾服のがっちりした大きな男に小走りに追いついた。
「うわ、間に合った!」
「おや、可愛いね、浩輔ちゃん、グリフィンドール」
「悩みましたよ、黒を基調に品位を保ってとか。あれ、なんか、藤堂さん今日、胸から上、えらくデカくないですか?」
「ホテルの顰蹙をかわない程度にね」
一行は勝手に携帯のシャッターが押されたりする中を客室用エレベーターへと向かった。
ややあって、またエレベーターが開き、黒のスーツの若い男が一人慌てたようすで降りたが、すぐに携帯をポケットから取り出した。
「あ、お疲れ様です。え、東京駅ですか? 早かったんですね。あ、えっと、実は今夜ハロウィンパーティで………、藤堂さんとか、佐々木さんとか…いや、あの、クリスマスはクリスマスで、今は……、は? かぼちゃパーティって……あ、いや、もう、早めに切り上げるつもりで……!………何だよ、いきなり切らなくっていいだろ!」
ブツブツ文句を言いながら若い男が客室用エレベーターへ向かった頃には、ロビーラウンジの客たちもすっかり静かになっていた。
ウォーターフロントにあるこのホテルのガラス張りの大きな窓からは東京湾をメインにした夜景が一望できる。
三十八階にある広いスイートルームでは、着飾った面々が、あちらこちらでワインやシャンパンの入ったグラスを手にゆったりと談笑していた。
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