アクアパッツァとワイン、岩牡蠣と日本酒で舌鼓を打ったあと、宇都宮が鍋からみんなの皿に取り分けた頃には、良太や須永の緊張も和らいできた。
「ほんとは鍋なら冬に炬燵でやりたいとこだけどね~」
宇都宮がぼそっと言って笑う。
「寒いときに炬燵で鍋って憧れるよ。でもこの部屋じゃね~、ここ和室ないし」
「あ、俺の部屋、炬燵あります」
良太が宣言した。
「絨毯の上に年中炬燵置いてて、俺の場合、冬はやっぱ炬燵でミカンと猫?」
「おお、じゃあ、今度は冬に、打ち上げで良太ちゃんちで鍋っての、どう?」
宇都宮が提案した。
「あ、いいわね~。うちも炬燵なんかないし、良太ンとこの炬燵、和むよね~」
ひとみが言うと、「おや、ひとみさん、良太ちゃんとこ行ったことある?」とすかさず宇都宮が聞いた。
「あるよ~」
「ああ、ピアス、猫のトイレに落っことしていくから、俺、探すのに大変だったんですよ」
良太がその時のことを思い出して文句を言う。
「あれ、まさか二人ってそういう関係とか?」
宇都宮の指摘にひとみが大笑いした。
「そういえばあの時、トシちゃんとおんなじように勘違いしてくれたやつもいたよね~」
工藤の話になると、良太は途端顔を曇らせる。
「あれから部屋も模様替えしましたし、猫もふえましたからね」
「あそ?」
「俺、猫、好きだよ。犬もね。ここだと一人だし、俺いないことが多いし、飼っても可哀そうだからなかなか飼えないんだけどね」
宇都宮が情けなさそうに言う。
「ほら、須永ちゃん、飲んでる?」
「はあ」
「この子、前に彼女に振られてからなかなかできないでさ、こないだの合コンもかすりもしなくて、くさってんのよね~」
ひとみの言葉にさすがに須永も眉を顰める。
「ひとみさん、余計なこと言わなくても」
「そうやっていじけてるから、寄ってこないのよ! ほら、ぱーっといく! ぱあっと!」
せかされて須永も勢いグラスを空けた。
それを見た良太も、続いてグラスを空ける。
「おおっ、良太ちゃん、何かいい調子! 何かいいことあった?」
「いいえ、ぜんっぜん!」
良太はそれからぼそりと、「俺も引っ越そうかな」などと口にする。
「引っ越すって、あんな便利なとこを? 家賃だって破格なんでしょ?」
ひとみにつっこまれて、良太はちょっと口ごもる。
「そう、なんですけど………、やっぱ会社の上に住んでるって、プライベートと仕事がきっちりしないっつうか………俺もそろそろきっちり自分の足で立たないととか思って……」
それを聞いてひとみは、良太の顔をじっと見つめた。
「だったら、いい物件あるよ」
宇都宮が言った。
「え、ほんとですか?」
「キッチンとリビングは共同のシェアハウスなんだけど、部屋は十六畳くらい、バスルーム付き、猫もOKで、家賃一万ってどう?」
「え、何ですか? その物件、ひょっとして事故物件とか?」
さすがに良太も訝し気に尋ねた。
「それはないない。心配しなくても」
「じゃなかったら、よほど山の中とか?」
「いや、ここ」
「ここ?」
「そう、ここ。部屋三つほど余ってるんだよね。良太ちゃん来てくれたら猫も一緒に住めるし、一挙両得ってやつ?」
嬉々としてのたまう宇都宮を見て、ひとみは、心の中であらあと呟いた。
「それ、いいかもな~、あーでも、彼女できたら、すぐ俺ポイされるでしょ? やっぱそれはちょっと」
「ああ、それは当分ってか、良太ちゃん来てくれるんなら、半永久的にないかなあ」
「ほんとですかあ? 俺、引っ越そうかな、ここ」
良太の発言に須永が驚いた。
「え、良太くん、何かあったの?」
ひとみが聞きたくて迷っていたことを、酔っている須永はストレートに口にした。
「や、何にもありませんよ。ただ、いろいろ考えてて、みんな何ていうか、自分の信じた道を進むというか、輝いているというか。宇都宮さんやひとみさん、俳優さんたちは勿論だけど、須永さんも、うちの小杉さんをはじめ、秋山さん、谷川さん、それに真中にしても、マネージャっていう仕事をして地に足がついてるっていうか」
良太は少し口をつぐむ。
みんなは黙って聞いている。
「うちの親父って川崎でちっさい修理工場やってて、俺、大学卒業したらうちつげばいいかなんて、のんびり野球ばっかやって就活なんかしてなくて、そしたら工場潰れて家族バラバラになっちまって、負債、俺が背負いこんだはいいけど、うわ、仕事どうしようってなって、破格の給料だからって今の会社入って、もうただ言われたことやるだけって感じでずっときて、はたとこれでいいのかな、とか」
そんなことを話すつもりはなかったのだが、何となく流れで良太は一気に言い放った。
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