さらに言えば、青山プロダクションにワケありではなく入ったのは、映画のオーディションで決まった南澤奈々の他は、小林千雪の原作を映画化したという理由だけでこの会社に移籍したこのアスカ以外いない。
「大体、『田園』なんか、ほんのチョイ役って聞いてたのに、坂口さんメチャあたしのキャラ出番増やしてくれるんだもん」
「はまり役だと思ったんでしょう。坂口さんって、いいと思うとどんどんやらせるっていう人みたいだし」
うん、アスカさん、それこそいい感じだもんな。
「それで、いつ本谷が工藤さんラブだって気づいたのよ、良太」
それはね、ってうっかり言いそうなくらいの自然な展開で、アスカが聞いた。
「は……? 何ですか、それ………」
「しらばっくれるんじゃないよ。ネタはあがってるんだ。とっとと吐け」
はあ、と思わず良太はため息をついた。
「警部役の取り調べじゃないんですから。ネタって何です?」
「だって、聞いちゃったんだもん」
「何を?」
アスカはエレベーターホールのことを簡潔に説明した。
「工藤と電話、ですか。本谷くん、もちょっと、ガードをきつくした方がよくないですかね」
工藤と電話で仲良く話せるというのは珍しいかもしれない、などと考えてから、工藤がわざわざ本谷に携帯番号を教えているということが、また良太の心臓を直撃する。
「いや、昨日も高雄で、工藤さんに、雰囲気だけじゃドラマは成り立たない、科白の方ももう少しマシに、体当たりでやれって言っておけ、とかって俺、言い渡されちゃって、キーマンだから心配なんじゃないですか? でも今時、体当たりとか、ないですよねぇ」
適当にごまかしてその場をやり過ごしたかった良太だったのだが。
「ドラマなんかどうとでもなるわよ。やっぱり本谷の本音、良太、知ってたんだ。まさか、本谷に直接聞かされたわけ?」
ごまかしは通用しない、とばかりに、アスカはさらに問いただした。
「まさか。俺も、ちょっと小耳に挟んでしまって、俺が聞いたってことは本人も知らないことで……」
仕方なく良太は口にした。
「だからって、なんで、良太が引っ越すとかってことになんのよ? 工藤さんが付き合ってんのは良太でしょ? 工藤さんなんか今までだっていろんな女とかいたみたいだけど、そんなの勝手に外野が騒いでるだけだったじゃない」
「まあ、それを言うなら、俺も一人で騒いでるだけかもって」
「何言ってんのよ、工藤さん、そんなこと良太に言ったの?」
ホントだったら承知しないという顔で良太を睨み付ける。
「いや………そんなわけじゃ……実をいうと、俺、うっかり、本谷が工藤に告ってるの聞いちゃって。無論二人ともそんなこと知らないんで。その時、工藤さんが、本谷に、男にもよく告られるが、お前は勘違いしているんだ、そういう本気度をドラマに活かせとかって………」
いつの間にか、良太は成り行きでぶっちゃけてしまった。
「その時、工藤さん、本谷に、良太と付き合ってるって言わなかったわけ?」
「いや、それは、立場的にも言わないでしょう」
「工藤さん、相手がいるとかっても言わなかったわけ?」
「まあ……」
「何よそれ! だから本谷、まだ諦められないで、恋心を持て余してるんじゃない! しかも工藤さんはドラマのことで本谷を心配してるのに、本谷の方は、工藤から声かけられて舞い上がっちゃってると」
恋心、とか、簡単に言ってくれちゃうし、と良太は自分のことのように少し頬を熱くする。
「や……でも、ひょっとしたら、それだけじゃないのかな、とか。ここんとこ東京の方は俺に丸投げ状態だし、最近、話すとかってのもほとんど業務連絡で、いわゆるフェイドアウトっつう………」
結局良太はそんなことまで吐露させられてしまった。
「何、ひょっとしたら、工藤さん本谷とこっちでよろしくやってるんじゃないかって? それで良太は宇都宮さんに乗り換えようってわけ?」
「は? 何でそこに宇都宮さんが出てくるんです?」
きょとん顔で良太は聞いた。
「だって、宇都宮さんとこで鍋やったんでしょ? その時に、宇都宮さんの部屋に引っ越すって話になったんじゃないの?」
「え、いや、それは、宇都宮さんがすんげく広い部屋に一人だからって、そんな話も出ましたけど、俺、酔った勢いで引っ越そうかなんて言っちゃったみたいだけど、まさか。確かに、俺、もし、工藤が本谷とそうなら、仕事は仕事だからきっちりやるけど、いつまでも工藤の恩情に乗っかって、部屋をタダ同然で借りてるわけにはいかないなって、そう……。それに俺ももうアラサーで、ちゃんと地に足つけて、独り立ちしないとって思って」
アスカはハハハと空笑いする良太をじっと見つめていたが、あのさ、と長い脚を組みなおした。
「前から言ってるけど、良太、あんた甘いのよ! 宇都宮さんってゲイじゃないけど、そういうのてんで気にしない人みたいだから。きっちり、あんた、ターゲットにされてるじゃない!」
「え、嘘……」
「それに、なんで工藤にきっちり本谷のこと聞かないのよ?」
良太は難しい顔で目の前のグラスを睨み付ける。
それができればとっくにやってる。
「それって、工藤に、俺ってあんたの何なんだって? でも答えはわかってる。俺、ただの部下だし。別に何の約束してるわけじゃないし。それに工藤と本谷、ほんとのところなんてわかんないし、人の気持ちなんて、俺がぎゃあすか言ったところで、変わるもんでもないっしょ」
するとアスカははあ、と大きく息をついて、「何よそれ」と言った。
「でもほんと、俺と工藤って、俺がぎゃあすか言わなければ、それだけのことで、しかも工藤が本谷に興味を持ったんなら、仕方ないし」
良太が言うと、ムッとした顔でアスカは腕を組んだままソファにもたれかかった。
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