酒のせいで良太の頭の中を高雄の北山杉や保津峡の谷間やほの暗い竹林が入れ替わり立ち代わり浮かんでは消えた。
深い緑の奥で怪しく何かが蠢いている。
それが急に近くなり、匠の舞だと思いきや、その顔は誰でもないいつかどこかで見た能の面になり、その瞳の奥から摩訶不思議な灯りがみえていた。
工藤の指や唇は良太の身体を性急に這い回り、時折半分夢見心地のような良太の弱いところを刺激するたび、良太の唇から悲鳴のような声が熱く漏れる。
知らず良太は屈強な男の首にしがみつくように腕を回し、工藤の体臭が入り混じったフレグランスの香には既に安心感さえ覚えている。
冷たいローションとともに工藤の指が良太の後ろをまさぐると、一気に目が覚めたように良太は声を上げた。
「いつの間にんなもん………」
「さあ? 洗面所に置いてあったぞ」
「なん……うあっ………あ…」
憎まれ口もたやすく追い上げられ、喘がされる。
ぎゅ…ぎゅ、ぎゅ…
数寄屋造りの部屋に置かれた上質のベッドが揺らぐ。
ぐずぐずに溶けた良太の身体に工藤は二度、三度と押し入る。
「あん………っ! くど……」
「…良太」
工藤に呼ばれて良太は身体を震わせた。
気が付くと仰向けに工藤を見上げていた。
「……やっぱ……胡散臭せ……」
自分を見下ろしている工藤に良太はつい悪態をつく。
「いい年の男が胡散臭くなくてどうする」
「開き直りやがって……」
フンとせせら笑う男を良太は睨み付ける。
「宇都宮に迫られたって?」
いったいそんな話どこから聞いたんだ?
「……ご……ごめんなさいしたっ!」
「迫られただけか?」
いつぞやわざわざ秋山が工藤に報告してくれたのだ。
再三良太に近づいていた宇都宮がいよいよ良太に迫ったなどということを。
「何だよっ! プライベートには口挟まないんじゃなかったのかよっ!」
確かに、俺なんか追いかけているより宇都宮の方がいいんじゃないか、とか、したり顔で言ったがな、ひとみに何だかだ言われた時に。
そんなもの、実際宇都宮が良太に迫ったなんぞと聞かされてみた日には、もたついていた照明の新人に、つい必要以上に当たり散らしたわけだ。
「ビジネスには建前ってのがあるんだ。建前ってのはウソとは違う。覚えとけ……」
「何が……ビジネスだよっ!」
意図を持った工藤の指は良太の背中をさすりながら尻の方へと降りていく。
「…………っあ………!」
いつの間にか奥を探られて良太が声を上げた。
「……やだ……」
言葉とは裏腹に、さらに工藤が良太を昂らせるのをもう逆らうこともできない。
「……あんん……っ!」
寄せられる唇に懸命に唇を重ねて良太は工藤の背中に回した腕に力を入れる。
内側に入っている工藤が熱くて、良太は腰をくねらせる。
「…あんたじゃ……なきゃ、やだ………」
切れ切れな言葉が良太の唇からほとばしる。
目尻から零れ落ちる涙に工藤が唇をつけた。
「……俺じゃないやつと………やんなよ……バカヤロ……」
途切れていく意識の中で、良太はそんなことを口走った。
「フン……お前に出ていかれちゃこまるからな」
良太の耳元に、そんな工藤の言葉が聞こえたような気がした。
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