真夏の危険地帯15

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「それで、重要な問題って?」
そういえばみっちゃんと涼子って、高校時代から続いてるっていう、希少なパターンだよな、まあ、別れたりくっついたり何度目だか知らないが。
ぼんやりとそんなことを考えながら、元気は一平の濃い顔とは対照的なさっぱり系のみっちゃんの顔を見つめた。
「せっかちだな、元気」
「どこがせっかちだ。もう四時間以上も待った」
するとみっちゃんはこれ見よがしに大きなため息をつく。
「こんな静かで心地よい空間で、美味いもの食って誰にも邪魔されずに愛しの相手とイチャコラできれば、そりゃ、ゴミゴミした都会で汚れた空気を吸いながらロックやろうなんて思わないさな」
「皮肉ぶちかましてもったいぶってんなよ、俺が聞いてるのは、重要な問題ってやつで……」
みっちゃんは尚もキリキリした元気の問いをはぐらかすように、店のスタッフを呼んで、冷酒を二つ頼んだ。
「それとアユの塩焼き二つ、トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼ、それと里芋のあんかけ、ね」
一見何の害もなさそうなみっちゃんの表情に元気は少しイラついた。
「一平がまた荒れてる。なまじ元気が一緒にステージに立ってくれたもんだから、あいつ、元気欠乏症、それも重症」
徐にオクラを載せた豆腐を口に運びながら、淡々とみっちゃんが言った。
「はあ?」
一瞬意味をはかりかねた元気は怪訝な声で聞き返した。
「何だよ、それ」
「言葉どおり。まあ、一平も昔よりは大人になったから、ライブをホッぽりだすようなことはしないし、次のライブまで間があるから何とかってとこだけど、はっきり言って一昨日のライブ、最低」
残った豆腐をみっちゃんは無駄につつく。
「そんなこと言われてもな……」
みっちゃんのことだ、多少の誇張はあるかも知れないが、わざわざこんな田舎まで出向いて、元気相手に愚痴るとはよほどのことなのかも知れない。
「あいつ、最近、女、断ってんだよ」
「はあ???」
またしても聞き間違えじゃないかというようなことを言われて、元気はみっちゃんの顔を睨むように見た。
そこへ冷酒やカプレーゼが運ばれ、一時二人は口を噤む。
スタッフが離れると、みっちゃんはゆっくりと冷酒を口に運び、また口を開いた。
「まあ、お前に何とかしろってわけじゃないが」
「俺に何とかできるわけ、ないだろ」
つい、語気が強くなってしまう。
「そういきり立つなって」
みっちゃんはまたため息を吐く。
確かに、自分の音を追求しながらGENKIを、あの一平をうまく操縦してここまでくるには、いかにみっちゃんの手腕が優れていたにしても、並大抵のことではなかっただろう。
無論涼子の力もあってこそだし、見方を変えればGENKIはこの二人が中心となって創り上げた一大プロジェクトなのだ。
元気はあらためてこの実業家の顔を持つアーティストを見つめなおした。
「はっきり言わせてもらえば」
みっちゃんは元気の視線を見返すように向き直る。
「そもそもGENKIってのは、元気、お前そのものなんだよ」
「何言ってんだよ」
「まあ、聞けよ。GENKIの根幹はお前への一平の賛歌にあるんだ。まあ、お前がちょっと離れようが一平がお前を渇望する限り、GENKIは存続する。豪には悪いが、一平がお前を思わなくなったらGENKIは終わり、つまりGENKIは一平と元気の危うい均衡のもとに成り立っている」
みっちゃんは言葉を切って、冷酒を一口飲んだ。
「まあ、仮にもし一平と元気がくっついていたとしてもおそらくGENKIはそれなりにやって行けてたと思うが、どっちかっていうと逃げる元気を追いかけている時の一平の方が、パワーがあるのさ。報われない方が渇望の度合いも大きいし」
しかしな、とみっちゃんは続けた。
「たまに一平が元気にありつけるとなれば、一平のパワーは倍増するんだけどさ、ほら、ネコを遊ばせるときみたいに、たまにキャッチさせてやらないと興味をなくすだろ? つまり全然、報われないってことになると、一平は仕事だろうが放りだしかねない」
「みっちゃんって鬼畜なことよく平然と言えるよな」
呆れて、元気はようやくそう口にした。
「けど、元気だってわかってたはずだろ? そもそもGENKIは一平がお前のために作ったんだ。あの一見ちゃらんぽらんな一平にはお前が必要だった。要は、一平のお前に対する情熱がGENKIの動力源そのものだった。一平が追いつくか追いつかないかってところでお前を追いかけてるっていうデンジャラスゾーンにある情熱から生まれる音楽こそにみんなが引き寄せられてるわけで、もし、一平が元気を追いかけなくなったら、その時はGENKIも終わりってこと」
断言するように、みっちゃんは言い切った。


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