真夏の危険地帯16

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「一平が俺じゃない誰かを渇望するようになれば、その相手に情熱を向ければ済むことだろう」
「その時はもうGENKIは成り立たない。そうなってみないとわからないが、仮に俺らの音楽活動が続くとしても、それはもうGENKIじゃない別物だろう」
 みっちゃんは冷酒をうまそうに飲んだ。
「それに、お前、一番大事なことを忘れている。GENKIの曲のメインは昔からほとんどお前が作ってるんだぞ!」
「曲なら一平もみっちゃんも作ってるだろう。俺じゃない他の誰かが作ったって、それはそれでいいものが生まれるかもしれないじゃないか」
「ま、な。ともあれ、お前がどこにいようと、誰とくっついていようと、GENKIはお前なしには存在し得ないってことさ」
「だからって、今の俺にはどうしようもないし……」
「今の、ってことは、昔ならどうかしようもあったってことか?」
 元気の言葉にすかさずみっちゃんは突っ込みを入れた。
 一瞬、元気は言葉に詰まる。
「んなの、言葉のアヤってやつだ」
「……ま、いいけどね」
 ちょうど鮎の塩焼きと里芋のあんかけがきて、しばらく、二人は黙って酒を口に運んだ。
 明日は明日の風が吹く。
 ふいに父親の口癖が元気の脳裏に浮かぶ。
 それって、明日はどうなるかわからない、ってことでもあるよな。
 確かに、今の自分がいるこの状況を例えば高校の時には想像もつかなかった。
 もし、豪に会わなければ、豪に近づかなければ、おそらく元気はグループを抜けることもなかっただろうし、ひょっとしたらGENKIのメンバーでライブを続けていたかもしれない。
 メジャーデビューとか、他のメンバーのようにそれほど望んではいなかったとしても、やりたくないというわけではなかったから、そのままきっと、一平ともずるするとあやふやな関係のまま続いていたのだろうか。
 そしたら、もしかしたら、父親はまだ生きていてあの店を続けていたのだろうか。
 時間が戻せるとしたら、自分はどういう選択をしたのだろう。
 元気はフン、と自嘲する。
 もしとかたらとか、考えても詮無いことだ。
 時は戻ることはないのだ。
 にしても、今日は昔のことばかり考えさせられる日だな。
「好きだったよ、一平が」
 するりと元気は口にする。
 みっちゃんはちょっと元気を見つめたが、何も言わず、器用に鮎から骨をはずしてかぶりついた。
「一年の時、声かけられて、何かこいつ違うって思ってた。強引で傲慢なやつだったけど、俺には結構優しかったし」
 元気は塩焼きをつつきながら、言葉を続けた。
「気持ちがなければいくら俺でも男と寝たりしないって」
 骨と頭だけを残してきれいに鮎を平らげたみっちゃんは、ひとつ大きく息を吐いた。
「お前さ、今頃になってそれ、言う? しかも俺に?」
 みっちゃんは緩く首を横に振る。
「いきなりやられた時は驚いたけど、あいつも多分同じ気持ちなのかと思ってはいた。けど、あいつ女も色々いたし、ほんとはどう思っているかとかわからなくなって、確かに俺のこと特別扱いしてはいるけど、それは音楽だけのことかも知れないって、俺からそんなこと口にして音楽の方に支障きたしても嫌だったし。やっぱこいつは俺だけのものにはならないやつなんだって、だんだん結構きつくなって、どうにもならない気持ちが重くて。でもそのうち、自分の中で何とか折り合いをつけることにした。俺って実は弱っちいからきついのはゴメンで。そんな時に豪に会った」
「一平はバカなんだよ。自分の気持ち、伝える術も知らない。あいつにとって女って、ひどい言い方だけど欲を満たすだけってやつ? お前さ、学生ん時、一平に親、紹介されただろ?」
 みっちゃんは珍しく苦々しい表情で元気を見た。
「一度な。たまたま一平んちに遊び行って、朝、起き掛けに飯食ってる両親んとこ連れてかれて。普通、一晩中やりまくって、いくらシャワー浴びたっつっても、アタマまだ乾いてもいねぇのに、親ンとこ連れてくか? しかも俺、男だぜ」
 一平の突拍子もない行動はよくわかっているつもりだったが、元気もさすがにあきれ返った。
「普通、しねーな」
「だろう? そんな状況で、はじめまして、なんて。でもなんでみっちゃんにそんなこと話したんだ? 一平のヤツ」
「一平じゃない、真理子弁護士」
 里芋のあんかけにとりかかりながら、みっちゃんは答えた。

 


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