真夏の危険地帯17

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「って、一平の母親?」
 意外な返答に元気はみっちゃんを見た。
「そ。だから、うちの社員がどうのと、鈴木弁護士事務所に相談行った時、お前のことだとわかって、真理子弁護士が、元気さん、グループに戻って下さったらいいのにねって」
「へ? 何で? そんな、GENKIのファンなわけ?」
「GENKIってより、お前の、だろ、お前のことえらく気に入ってて」
「はあ? 何で?」
 元気は怪訝そうに聞き返す。
「一度会ったきりなのに? 確かに、あんな状況だったのに、怒られるどころか朝ゴハンすすめられて、大学のことくらい話したか、二人が出かけるまで和やかだったな。まあ、男だし、ただの友達と思ってくれたのか、一家弁護士とかエリート家族だから、許容量が大きいとか? でもそういうことよくあるんじゃね? 一平のことだから女と寝起きとかでもさ」
 いや、とみっちゃんは即座に否定した。
「友達やら女やら家に連れてこうが何しようが好きにさせてたみたいだが、後にも先にもお前だけだって、フタ親に、しかも一平から紹介したとかって」
「はあ?」
 元気は眉を顰めた。
「だからさ、真理子弁護士は、一平にとって特別な存在はお前だって知ってるし、むしろお前が早いとこ嫁にでもきてくれたらいいのにくらいな口ぶりだったぞ」
「はああ???」
「今考えると、そうか、だから結構力入ったのかもな、お前の正体隠しの件も」
「やめてくれ」
 これ以上話を複雑にしないでほしいと、元気は無暗に髪をかき上げる。
「一平にはお前だけで、お前も一平が好き、ってつまり両想いってやつじゃね? お前が元のさやに納まれば大団円。それはそれで新しいGENKIの形ができるかも、ウン」
 みっちゃんは一人頷いた。
「勝手なこと言うなよ、好きだったって言っただろ。今は……」
「豪がいるってか? でもさ、あいつだって、女がほっとかないし、優花も今はマサとつき合ってっけど、この先どうなるか、わかんないぜ?」
 みっちゃんの言っていることは、さんざん元気自身が考えてきたことでもあった。
 このままずっと豪と元気がうまくいくとは限らない。
 むしろ、いつか豪は離れていくのではないかという懸念は常にある。
「俺らもさ、俺と涼子、お互い別のやつとつき合ってたこともあったし、一時は涼子、会社辞めるまで言い出したこともあったけど、結局は腐れ縁、モトサヤ?」
「は…、お前らは割れ鍋に綴じ蓋、そのものだろ」
 元気は苦笑して、酒を飲み乾した。
「俺はお前らもそんなもんだと思うけど」
 みっちゃんの言葉は元気の心を揺るがせないではない。
 第一、豪とのことはとっくに終わらせたつもりで逃げ出したわけで、豪がここまで追ってくるとか、豪とこんな関係になるとは予想だにしなかったのだ。
「去年、一平のやつ店に来たとき言ったよ、俺だけでいいって。けど、あの時はもう誰にも応えるつもりはなかったんだ、無論、豪のやつにも」
「何だよ、じゃあ、一平に告られてるんじゃないかよ」
 元気の発言にみっちゃんは胡乱気に酒を呷る。
「あいつ、おっせぇんだよ、やることが。まあ、人の気持ちなんて、他人にはどうしようもないからな。けど、お前もなんで、もちょっと待っててやらなかったんだよ。あいつ、豪が現れてやっとジタバタしたんだ。ったくバカだよな」
「何だよ、人の気持ちはどうにもならないっていったばっかだろ」
 元気は突っ込みを入れる。
「まあな、俺としては、豪がお前がGENKIに関わるのを邪魔するとかしなければって、黙認してたんだが。なるほど、豪に執念深くここまでお前を追ってこられて住みつかれて、押し切られたと。元気は存外乙女だったわけだ。誰よりも好きくらいじゃいや、オンリーユーじゃないといや!」
「うっせーぞ! みっちゃん!」
 茶化すみっちゃんに、元気は声を荒げた。
 酒が入っていたせいか、この店の空間があまりに居心地がよかったせいなのか、珍しく誰かに自分の心の内を吐露してしまったことが、元気は自分でも意外だった。
 いや、人畜無害なバリアを張り巡らしているがその実お釈迦様みたいに掌の上で人を操るのがうまいみっちゃんに、きっちり誘導されて吐かされたのかもしれない。
 店からタクシーを呼んでもらい、二人は車が来るまで外に出て風にあたることにした。
「やっぱこっちは、夜になるとぐんと過ごしやすくなるな。昼の暑さが嘘みたいだ」
「東京と比べたらな。それにこの辺りは街中より気温が低い」
「言っとくが、お前の音が好きなのは一平のやつだけじゃないからな。でなきゃ、こんなとこまで時間作って来やしない」
 元気は笑った。
「俺の本気を嗤うなよ。まあ、GENKIはやれるとこまでやってみるつもりだしな。だから、お前もたまには非常勤任務をこなせよ。もし豪が邪魔しようもんなら俺は当然阻止するからとは、豪にも言ってある」
「豪に? いつ」
「こないだ、オーストラリア行く前か? お前がライブに出る時は絶対知らせろとかってオフィスに押しかけてきやがって」
「あの、バカ!」
「しっかり手綱を締めておけよ、妙なとこで暴れたりしないように」
 全くあいつは何を考えているのやらと元気はため息を吐く。
「ヤツとダメになったら、今度は正社員になってもらうから、安心しろ」
 ホテルで降りたみっちゃんが、別れ際にそう言って手を振った。
 何が安心しろだ、胡散臭いんだよ、と元気は胸の内で悪態をつく。
「中橋の前までお願いします」
 元気は運転手に告げると、シートにもたれて静かに目を閉じた。

 

 


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