真夏の危険地帯5

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 部屋でシャワーを浴びると、一平に指定されたバーラウンジで生ハムやチキンのサラダ、それにビールで軽く夕食にして、ウォッカソーダを呑みながら元気はキラキラと輝く横浜の街を見おろした。
「何か久しぶりだな、この、都会って雰囲気」
 すると後ろからポンと肩を叩かれ、「世の中を騒がせて消えた謎のギタリストがなんつう陳腐な台詞だ」という声に、元気は、「遅いぞ」と笑う。
「素直な感想を述べただけだろ。待て、将清、何だその謎のギタリストだの世の中騒がせただのって」
 隣に座ったのはいかにも都会的なイケメン、その隣には「久しぶり」と笑うちょっとベビーフェイス、とはいえスーツが板についている。
「当の本人が何言ってる、俺らまでだまくらかそうなんて思ってるんじゃないだろうな?」
「すごかったみたいじゃないか、今夜のライブ」
「え、何で知ってんの? 優作まで」
 訝しげに元気は二人の友人の顔を交互に見た。
 二人は大学の同期で、卒業後もちょこちょこ連絡を取り合っている友達だ。
 二人とも同じ大手出版社に勤務しており、毛利将清はスポーツ誌、江川優作は美術誌の編集部に在籍している。
「お前、田舎にこもってるうちに、ITの威力まで忘れちまったのか?」
「とっくにネットで流れてるぜ、知ってるやつはすぐお前だってわかるだろ」
 優作は自分の携帯の画面を元気に見せた。
 そこには確かにたったさっきのライブの様子が映し出されている。
 元気は天を仰いだ。
「くっそ、こういうのってみっちゃん、わざとライブ撮影容認しているっぽいぞ」
「ああ、うまく利用しているな」
 将清が頷いた。
「それよか、これどうすんだよ、こっそりじゃなくなってんじゃん」
 全くこれでは、内緒でライブに出たつもりだったのに元気のことを知っている人間なら誰にでもわかってしまうだろう。
 元気はため息をついた。
 誰でも、つまり豪にも遅かれ早かれわかってしまうということだ。
 昨日から北海道で仕事のはずだが。
「逆効果なじゃいか、これって」
 優作が言った。
「顔隠したら人間、余計誰だろうって詮索したくなるし」
「その通り」
 将清が笑う。
「だから、ライブ撮影なんかされるとは思ってなかったんだよ。だからわざわざ、テレビが入っていない今夜にしたってのに」
 ウエイターがやってきたので、将清はマティーニ、優作はミモザを頼むと、元気もマティーニを追加オーダーした。
「ってか、もっと早く連絡しろよ。慌てただろう、ここ十時半ラストオーダーだぞ」
「いや、時間ないかと思ってたから」
 将清に指摘されて元気はぼそぼそと言い訳した。
 実のところ二人には申し訳ないが、一平とさしで逢うというのを避けたかったというのが大きな理由なのだ。
 もちろん、大抵上京した際は「GENKI」の面々よりは二人と会うことにしているのだが。
「五月にいきなり浅野がやってきて、ちょっとだけでいいから出てくれって。契約社員なんだからそのくらい当然とかゴリ押しされて……」
 元気が仔細をかいつまんで話すと、二人は笑った。
「浅野さんってやり手だよな。独立してからぐんぐん伸びてるし、会社の方も」
 感心したように優作が言った。
「浅野もだけど、だから何かっていうと裏でみっちゃんが糸を引いてるんだよ」
「確かに、みっちゃんって得たいが知れないところあるよな」
 将清が笑った。
 カクテルが運ばれてきたので乾杯し、最近の状況などをそれぞれ口にする。
「もう、やんなるよ、この連日の猛暑ン中、嫌味な評論家の原稿取りに行ったりした日には。ITとかと隔絶した生活してるから、メールで原稿とか考えられないとか何とかってさ」
 こぼす優作に、「なんの、炎天下、球児たちの練習に付き合ってみろ、こっちはいい加減ジジイだってのにさ」と将清も同調する。
「いいよな、元気は、自分の店でのんびり、田舎で」
「勝手に羨ましがれよ。俺はみっちゃんみたいな器量はないから、自分の店をきりもりするのだって、結構大変なんだぞ」
 いい加減年もくってきたしさ、と年より臭いことを付け加えて元気はマティーニを舐める。
「じゃ、いっそ『GENKI』に戻ればいいじゃん」
 優作が簡単そうに言った。
「そうだ。そろそろ戻れよ、元気」
 唐突に上から低い声が降ってきて、三人が振り仰ぐと、大柄な男が突っ立って一般人らしからぬオーラを無駄に放っていた。

 


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