真夏の危険地帯4

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 無論最初から何もかもうまくいくわけではなかったが、みっちゃんが虎視眈々と準備を重ね、その広い人脈やネットをフルに使う頭脳戦略は徐々に功を奏し、メンバーは皆同格、ギャラはしっかり頭割りとなって、それぞれ意欲的に活動しつつ、現在に至っている。
 元気の肩書である嘱託社員とは、以前、元気が大学の同期の披露宴に出席するために上京した際、妙な芸能プロダクション社長に目をつけられて、「幻のギタリスト」などという異名をネットに流したり勝手に元気のライブの海賊版を売買した上、元気を芸能人にしようという企みで元気が付きまとわれた経緯があり、その社長をみてカッと来た元気にベタぼれのカメラマン豪が殴り倒したこともあって、今後こんな事件が起こるとも限らないからという理由で、みっちゃんにいきなり契約書にサインさせられたのだ。
 元気がGプロモーションの嘱託社員ということになれば、誰も手出しはできないということで、胡散臭いとは思いながらも元気は同意をしてしまった。
 案の定、ライブに出ろという涼子を元気は跳ね返すこともできずに、出ることになったわけだった。
 株主、というのも、元気の与り知らないうちに株主にさせられて、無論みっちゃんの仕業だが、著作権料とともに勝手に配当金が振り込まれてくる。
「全く、みっちゃんには、何やらされるかわかったもんじゃないな」
 車の中で元気は涼子がやって来て、あれよあれよという間に出演することになってからのことを思い出してまたため息をついた。
「みっちゃんて、古田さん? 浅野さんじゃなくて?」
「実は陰で牛耳っているのはみっちゃん。まあ、事務所は浅野が動かしているんだけど、何かって時は背後にみっちゃんがいるわけ。葛城も気をつけろよ。みっちゃん、呑気そうな顔していざとなったら容赦ないから。俺もお蔭でいつの間にやら、契約社員とかにされちまって」
 元気はみっちゃんに言いくるめられてサインさせられたのも昨年の暑い夏だったことを思い出した。
「でも、すごい実力あるし、オリジナルメンバーなんだろ? 一緒にやればいいんじゃないのか?」
「いや、俺はしがない田舎の喫茶店のマスターだから」
「はあ…そう」
 葛城はそれ以上は何も言わなかった。
「いい? うちのメンバーはみんな頑固で独りよがりで我儘で、こうと言い出したらなかなか聞かないから、そこんとこしっかり頭に入れといて」
 涼子にそう釘を刺されているからだ。
 やがてロイヤルホテルのエントランスが近づいてきた。
「忘れるところだった、一平さんからの伝言で、ホテルの最上階にあるバーラウンジに十時ということです」
 元気はそれを聞いて、「は?」と聞き返した。
「何で一平が俺のホテル知ってんの? 一平には教えるなって浅野にも言ってあったはずだけど」
 今回の上京は実のところプライベートでも極秘機密で目的も上京する事すら誰にも教えていない。
 しかも一平って、冗談だろ、またぞろおかしな誤解を招くだろうが。
 ただでさえ、豪のやつ、一平のこと疑ってんのに。
「え、でも一平さんとつきあっているんじゃ……」
「はあ? 何でそんなことになってんの?」
 確かに葛城、ゲイもバイも気にしない男なのかもしれないが。
「いや、だって、こないだ、一平さん俺のこと捕まえて、元気に手を出したら承知しねぇ、俺のもんだとかなんとか……で、俺はそんなつもりはないって。そしたら、ホテルを聞かれて、送る時にその伝言を元気に伝えておけ、と」
「あんのやろお!」
 下手して部屋に乗り込んでこられた日には誤解だけですまないかもしれない。
「違ったんですか? でもステージじゃすごく息が合ってたし、俺はてっきり……」
「はあ、仕方ない、葛城のせいじゃないから。悪かったな」
 エントランスの車寄せで元気を降ろすと、また翌朝新幹線の駅まで送ります、と言い残して葛城はまたベイアリーナへ戻るべくハンドルを切った。
「ったく、何時だよ今……九時過ぎか、よし」
 元気はこの手しかないか、と呟きながらフロントに向かった。

 


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