真夏の危険地帯3

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 ともあれ「GENKI」がいよいよメジャーデビューという時になって元気が突然、田舎に帰って亡くなった父親の店を継ぐと言い出して脱退したものの、新たにギタリストとして斎藤正を迎えて「GENKI」は勢いよく船出した。
 当時、「GENKI」が所属していたのは比較的大手の事務所で、デビュー直後から主に一平のルックスと存在感を売りにした戦略は、メンバー全体の実力というしっかりとした土台の上にあって大成功といえた。
 だが契約期限に近づきつつある頃、メンバーは事務所からの独立を画策し始めた。
 事務所のあくまでも一平のルックスやカリスマ性を重点的に売るという、一平とそのバックバンド的な扱いにメンバーの中で次第に軋轢がうまれていたからだ。
 それはギャラ的にもはっきりと表れていたし、どうやら事務所側はそれでバックバンドが脱退したとしても、代わりのバックバンドを補充して一平をタレント、俳優的にも売り出そうという路線へ仕向けようとしていた。
 これに嫌気がさしていたのは当の一平だ。
 寄らば喰う肉食系の典型のような一平に、次から次へと女を与え、贅沢をさせ、いつもながらのああしろこうしろには揉み手をしてその望みを叶えてやることで、事務所は一平を操っていた。
 いや操っているつもりになっていた。
 だが、もともと自己中、自由奔放なだけの一平が、いつまでも事務所の言いなりになっているわけはなく、実際、最近一平の彼女と大きくマスコミを騒がせた売れっ子タレントは事務所の意向とは関係なく勝手にくっついた他の事務所の所属で、いくら事務所の所長やらマネージャやらが別の女を与えようとしたところで、一平にとってはどうでもよかった。
 しかしいい加減、そんな事務所の思惑や干渉をさすがに一平もうざったく感じ始め、決定打は事務所側が売れる音楽路線云々と口にしたことだった。
「おい、みっちゃん、事務所辞めるぞ」
 事務所側に対して不快そうな目を向けただけで、一平が昔のように怒鳴りつけたりしなかったのは、ひとえに、社会人として仕事をしている以上、暴力暴言は一切禁止だからな、と日々みっちゃんこと光彦が言い聞かせてきた賜にあった。
 さらに、ああ見えて一平は周りを気にしないから空気は読まないが正義感は強いし、何よりバンドとしての音楽を非常に大切にしている上、何かあったらまずみっちゃん、という不文律が一平の中ではきっちり成り立っていた。
 一平のその一言で、「GENKI」は独立へと密かに動き始めた。
「いいか、一平は金持ちの家で贅沢三昧で育ったから何も考えないかもしれないし、半分はお前の人気でもっているってこともわかってはいるが、他のメンバーは事務所からお前のバックバンド扱いされていることやギャラがお前とは桁でもって違うことに不満を持っている」
 みっちゃんはここぞとばかり、幼稚園児に噛んで含めるように一平にとくとくと状況を言い聞かせた。
「んなもん、すぐに辞めるぞ!」
 と言い出すことはみっちゃんとしてもわかっていたから、今まで一平には何も言わなかった。
「ことはそう簡単にはいかない。こっちが優位になるように立ち回らないと」
 事務所側が一平を甘く見ていたこともあるが、一平の親が放任主義だということに高をくくり、落ちこぼれ息子が一躍有名になるのが嬉しくないはずはないと思い込んでいたのも彼らの敗因だった。
 双方とも名の知れた敏腕弁護士である一平の両親は、有楽町に大きな法律事務所を構え、鈴木家は兄、姉ともに弁護士というエリート一家である。
 そんな一家に育った一平だが、親は確かに放任主義で子供にエリート教育をするでもなく、兄も姉も自分で勉強して弁護士になったし、一平が何をしようと他人に危害を加えたり、犯罪を犯したりしない限り、成績が悪かろうが好き勝手にやらせていた上に、兄弟で比べたりするようなこともなかった。
 だから、一平がみっちゃんを連れて両親の事務所を訪れ、現在の事務所の彼らへの対応や考え方の相違から、事務所から独立したいことを相談すると、きっちり仕事として請け負ってくれた。
 事務所としては独立は寝耳に水だったらしく、表面上は円満に独立させたことになってはいるが実際のところすんなり解決したはずもなく、鈴木法律事務所の介入があってこそ今、彼らの自由があるのだ。
 というわけで、「GENKI」は株式会社Gコーポレーションを立ち上げ、涼子を取締役に据えて、新たな船出へと舵を切った。

 


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