映画、ドラマの制作を中心に、タレントの育成、マネジメントなどが主な業務内容で、業績はこの不景気なご時勢にあって右肩上がりだが、万年人手不足のため、社長の工藤と、唯一社員募集の面接で会社を逃げ出さず、今やその懐刀となった良太は、寝ても覚めても仕事のループから抜け出せないでいる。
人手不足の理由としては、主に広域暴力団中山組の組長の甥という工藤の出自にあり、社員募集の広告を出したところで、工藤がその事実を告げると大概、面接で踵を返す。
例え工藤が、一切縁を切っているとしても歴然とした事実は消えることはなく、この会社の社員となっているメンツはほぼ、何かしらワケアリな人間だ。
だからこそなのかもしれないが、良太にしてみると最近では一つの家族のように思えるのだ。
にしても、工藤、どんだけワーカホリックなんだよ!
ちょっとは話くらいしても罰は当たらないだろ!
昨日ニューヨークから戻ったかと思ったら京都に向かうという工藤を、成田に迎えに行った良太は、そのまま東京駅に直行し、車内でも工藤は電話で話していたので、ロクに言葉も交わす暇もなかったのだ。
良太が心の中でグタグタと、社長の工藤に文句を言っていたからか、しばらくして当の本人が戻ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「ああ」
返事をしただけマシか、という感じで、工藤が自分のデスクに着くなり、携帯が鳴った。
また電話で何だかだと話し始めた工藤をチラリと睨むと、良太は自分のパソコンに向かった。
別にさ、お帰りなさいって言ったら、逢いたかったよ、ダーリン! なんてのを望んでいるわけでもないし、大体自分で考えてキモイしそれ、沢村と佐々木さんみたいにお互い相手しか見えてないみたいなのがいいわけでもないけどさっ。
俺ら沢村たちより古いつきあいなわけだし。
もちょい、こう、何かしらのアレがあってもさ。
ブツブツと良太は心の中で呟いた。
一応、社長でオヤジだが鬼の工藤と、部下で怒鳴りまくられているけれど良太は、一般的に言えば付き合っている関係なのだ。
そこはまあ、良太の方が工藤に刷り込み状態、とか周りではそういう認識なのかもしれないが。
佐々木さんに逢えないと良太にちょくちょく電話してきて沢村は愚痴りまくるのだが、いつ会えるともわからない工藤を待っている良太の方がどれだけ愚痴りたいか、と言いたいところなのだ。
「タレントの都合でスケジュール変更とかできるか! ああ? 風邪をひいて声が出ない? んなもん、健康管理くらいきっちりさせろ! 熱が出た? 仕事しているうちに熱なんか下がる!」
うお、何か揉めてる。
ドラマ出演に穴? とか?
ってより、もろ昭和なパワハラじゃんね。
仕事しているうちに熱なんか下がるとかって、今の若い子には通用しないって、それ。
聞き耳を立てている良太は、工藤の怒鳴り声に一つ一つ心の中で抗議する。
「いいか、次はないって言っておけ!」
あああ、可哀そうに。
相手はマネージャーとか?
「良太!」
電話が終わったらしい工藤が、いきなり良太を呼んだ。
「明日、明後日、スケジュールあけろ」
「え? は?」
あまりに唐突な命令に、良太はちゃんとした言葉が出てこない。
「今夜から軽井沢に行く。準備しておけ」
そう言いおいて、工藤はまたオフィスをたったか出て行った。
「ちょっと待てよ! 俺の都合はどうにでもなるっての?」
既に出て行った工藤に向かって、立ち上がった良太は思わず声を上げた。
はあ、とため息も大きくなるわけだ。
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