鬼の夏休み21

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「お茶、お代わりいかが?」
 紅茶を入れ直したポットを持って戻ってきた杉田が聞いた。
「あ、ありがとうございます」
 良太はさすがに大きなチョコレートプレートを食べた後は胸やけがしそうになって、紅茶をゴクゴク飲んだ。
「明日は何時頃こちらを発つ予定です?」
 杉田は紅茶を良太のカップに注ぎながら尋ねた。
「十時くらいには出ます」
「あら、じゃあ、朝食召し上がっていけますね」
 杉田は工藤のカップにもお茶を注ぐと、またキッチンへと向かった。
 すかさず工藤はまたケーキの皿を良太の方へ押しやった。
 良太は工藤の皿を自分の皿と取り替え、パクパクと食べきった。
「杉田さんせっかく作ってくれたのに、知れたら泣いちゃいますよ?」
「お前が言わなきゃわからないさ。先にシャワー浴びるぞ」
 工藤はのんびりお茶を飲んでいる良太を残して、二階へ上がっていった。
「あら、ぼっちゃん、もういいのかしら」
 何度聞いても、良太は、工藤をぼっちゃん呼ばわりできる杉田さんはえらいと思う。
「シャワー浴びるって」
「そうね、綾小路さんのところの大パーティですものね」
「大パーティ?」
 良太は意外なキーワードに杉田を見た。
「このあたりではそう言ってるのよ。毎年、大抵今頃、こっちに滞在しているお金持ちや芸能人を招いて大きなパーティ開催されるから」
 そんなに有名なパーティなのかと、良太は再確認する。
「はあ、毎年ですか、それは大変ですよね、京助さんたちも」
「気さくな方なんですって? 私はお目にかかったことはないけど、お隣の奥さんがスーパーで見かけたらしくて」
 まるでアイドルの話でもするように、杉田は楽し気に話す。
「気さくと言えばそうかな」
 どちらかというと横暴、お山の大将的なんだけど。
 とは思うものの、杉田のイメージを壊す必要もないだろうと良太は敢えて言わなかった。
「ケーキもうひとついかが?」
「あ、いや、ちょっと俺も用意しないと。美味しかったです。ごちそうさまでした」
「そうお? じゃあ、冷蔵庫に入れておくわね」
 一つ半プラスチョコレートプレートなんかまで食べちゃって、これ以上食べるのはさすがに俺もちょっと無理。
 何とか理由をつけて良太も上に上がった。
 車で工藤の別荘を出たのは六時半を回った頃だった。
 良太はタイが思うように結べず、だが時間もおしていたので、もういいや、と慌てて階段を降りたのだが、深みのあるスチールグレーのダンヒルのスーツで待っていた工藤が良太のタイに気づいて、黙って結び直してくれた。
 前にもそんなことがあったが、タイを結んでくれたりする工藤の指に良太は妙にドギマギしてしまう。
 車を回す時もまだドキドキがおさまらず、何やら頬まで赤くなっているのを工藤に悟られたくなくて、良太は無暗にフロントガラスの向こうを睨み付けた。
 綾小路の別荘に着くと、門の前には一人お仕着せを着たスタッフが立っていて、車に近寄ってきたのでパワーウインドウをさげると、お名前をと聞かれたので、良太は工藤と広瀬だと答えた。
 門が開いたので、良太は車をゆっくりと進めた。
 昨夜と同様車寄せでは藤原とスタッフが出迎えてくれて、良太はスタッフにキーを預けた。
 その時、何かしら引っ掛かりがあるような気がして、一度振り返ったが小首を傾げつつ、藤原に案内されて工藤とともに中に入っていった。
 ホールからリビングへと扉が開かれ、二月にのんびりスキー合宿した屋敷内は、スーツやドレスをまとった紳士淑女が所狭しと集っていた。
 何かのイベントかアイドルのコンサートみたいだ。
 良太は通り過ぎた女性のきつい香水にむせ返りそうになった。
 紫紀と小夜子は昨夜とはうって変わって、かっちりとした黒系のスーツと黒のイブニングドレスで二人を出迎えた。
「連日ご足労頂いて恐縮です。後ほどお話を。良太ちゃんもそれまで美味しいもの食べて待っててください」
 紫紀はそう言いおくと、二人は新たな客に挨拶に向かった。
 昨日と同様、ホールスタッフが何人かトレーにグラスを乗せて歩いているが、今日はみなお仕着せに身を包んでいる。
 女性スタッフからノンアルコールのグラスをもらった良太は、はっと気がついた。
 ホール内を見回すと、昨夜と同じスタッフの顔が目に入った。
 あの子だ、そうだ、藤原さんと一緒にいた男って、さっきあの子と一緒に外で何か揉めていたやつだ。
 もう一人、年配の男が怒ったような顔をしていたが。
 何か気にかかる。
 だが、何なのかわからない。
 口論していたからって、だから何って話だが。
 良太は近くのテーブルにグラスを置くと、「何かもらってきます」とばかりに有名レストランのシェフによるビュッフェへと向かった。
 皿を持って一口大に切ったステーキから始まって生ハム、サラダ、鶏肉のクリーム煮など、順番に取っていく。
「あら、良太ちゃん、今夜も来たの? おりこうさん」
 ちょっとおちょくったような言い草で話しかけてきたのは、今夜は大きくスリットの入った黒いチャイナドレスの理香だ。
「おりこうさんとか、俺もういい年なんですけど」
 良太はきっぱり言い返す。
「あら、そうだった? 大ちゃんくらいかと思ってたけど」
 うっと良太は一瞬言葉をなくす。

 


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