大ちゃんって、紫紀さんの息子の?
「俺こう見えてもう大学卒業して、会社入って数年経ってます」
「そうなの?」
って、スキー合宿でも会ってるのに、俺、そんなガキに思われてたんだ?
良太は心の中でガックリする。
「千雪さんの後輩になります。夕べも社長のお供ですって言いましたけど」
千雪の名前を出せば少しはまともに見てくれるかという期待を込めて良太は言った。
「そうだった? 夕べ酔ってたから。でも可愛くていいじゃない」
暖簾に腕押しとはこのことだ。
良太はもう理香に抗議するのをやめた。
「あ、そこのローストビーフ、美味しいわよ。そっちのフルーツトマトとモッツアレラも最高」
「はあ」
美味しいものならいただこうと、良太は両方とも皿に取ったので皿は一杯になった。
皿をもう一枚重ね、フォークを二つ取る。
「会社ってどこだっけ?」
「え、青山プロダクションです。一応プロデューサーです」
理香に聞かれて良太は、プロデューサー、を強調する。
「っていうと、ひょっとして工藤さんのとこ?」
俄然、理香の目が輝いた。
「そうですけど、昨夜も今夜も一緒に来てますよ」
胡乱気に良太は理香を見た。
「やだ、そうなの? 工藤さんて苦み走って素敵な方よね? 完成された男っていうか。以前、番組でご一緒したことがあるのよ」
うわあ、こんなとこに工藤フリークがいたなんて!
そうか、昨夜、工藤、紫紀さんとずっと話していたから気づかなかったのか。
「番組って……」
「ドキュメンタリーで、うちの親とか茶道家元とか扱った番組。もう十年以上前になるかしら」
「工藤がまだ局にいた頃ですか? だったらもう今は、苦みだけのオッサンになってますけど」
つい、けん制のつもりで良太はそんな風に言ってみる。
「あら、オッサンいいじゃない? 紹介してよ」
ムッとした顔のまま良太は理香と一緒に歩き出したが、理香は有名人らしく、あちらこちらから声がかかる。
「理香、可愛い子連れてるわね」
「おい、若すぎるだろ? その子」
「弟とか言うなよ?」
「紹介しろよ」
みんなどこかええとこのボン、お嬢、といったところか。
「青山プロダクションの広瀬良太ちゃん。何とプロデューサーよ」
理香が紹介すると、周りが沸いた。
「知ってる、青山プロダクションって、中川アスカとか志村嘉人とかいるところよね?」
誰かが言った。
「え、プロデューサーなの? 新人俳優さんじゃないの?」
「プロデューサーです」
良太はきっぱりと言った。
「ああ、そうだ、名探偵ものの映画、ヒットさせたとこだよな?」
「そうよ、可愛いからって見くびっちゃだめよ」
理香は偉そうに言うと、住吉建設の常務高橋、川村物産の広報部長川村、京浜ホールディングス営業部浜村、三友フィナンシャル頭取の娘友田、立川グループ本社営業部営業課長立川、と数人の男女を良太に紹介した。
するとみんながそれぞれ名刺を差し出したため、両手がふさがっている良太は困った。
「良太ちゃんの名刺はポケット?」
理香に聞かれて、「あ、はい、左の」と良太が答えると、理香が傍に立つ立川に自分の皿を預けて良太のポケットから名刺入れを出した。
「広瀬良太ちゃん。この子こう見えてT大法学部出てバリバリエリートよ。覚えておいて」
理香はそれぞれの名刺と良太の名刺を交換し、集めた名刺を良太のポケットに入れた。
さすが京助のご友人だ、冗談染みていてもちゃんと話したことは頭に入っているのだ。「じゃ、行こ」
立川から自分の皿を受け取ると理香は良太を促した。
「あ、すみません。失礼します、皆さん」
良太はどれもこれも一部上場企業だったな、と軽そうな感じで理香に声をかけてきたメンツが意外だった。
「俺別にエリートじゃないですよ」
「いいのよ、勝手に紹介されときなさい」
「はあ、でも、ありがとうございます」
「だって、工藤さんに恩を売っておかなくっちゃ」
って、それかよ?!
良太は少しばかり気が気ではない。
戻ると、工藤は年配の男と話していた。
「あら、藤田さん」
理香が声をかけると、フジタ自動車社長、藤田が振り返った。
「おや、理香さんじゃないか。広瀬くんも、久しぶり」
「お久しぶりです」
良太は皿を傍らのテーブルの上に置いて、藤田にぺこりと頭を下げる。
やはり財界の大物がこぞって集まってるんだ。
助かった、工藤と理香さん、二人でってことにならなくて。
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