「ああ。年一回はかかった方がいいだろう、年も年だしな」
そう答える工藤に、工藤さんもじゃないですか、と口にしそうになった良太だが、危うく口にするのをやめた。
「それ、工藤さんもじゃないですか?」
良太が言い損ねたセリフを吉川がするりと言った。
「平さんが、心配してましたよ? 社長はいくら何でも働き過ぎだって」
吉川に乗じて良太も「そうですよ、いい年なんだから」と大きく頷いた。
「うるさいな、俺は検診とか嫌いなんだ」
しれっと工藤はそんなことを言う。
「またそういうことを。社長が倒れでもしたら、会社どうすんです?」
「そしたら、俺の代わりにお前がやればいいさ」
それを聞くと思わず、良太は声を上げた。
「冗談も休み休み言えよな!」
怒りと哀しさで良太は目頭が熱くなるのを感じた。
何言ってるんだ、このオヤジは!
勝手なことばっか言って!
あんたが倒れたりしたら、俺なんか立ってらんないんだよ!
ばっきゃろ!
店内だということを辛うじて思い出した良太は、怒鳴りつけたいことをぐっと飲みこんだ。
「ったく、可愛い部下にこれ以上心配させないでくださいよ」
吉川は笑いながら、二人の前にフルーツシャーベットを置いた。
良太は情けない顔をしたまま、シャーベットをすくって口に運ぶ。
工藤はシャーベットを一口口にしただけで、良太の方へ押しやった。
上目遣いにちょっと睨みつけたものの、結局良太はシャーベット二人分を食べてしまった。
何だかだ言いながら、俺って貧乏性っつうか、食い意地張ってるっつうか。
エスプレッソの苦みを味わいながら、良太はふと、母親の言葉を思い出した。
「お腹いっぱいご飯が食べられることを、感謝しなくちゃだめよ、良太」
母親はクリスチャンでも何でもないが、その言葉は耳にタコで、今やっと頷ける気がした。
それにしても、付き合いが長くなると、随分大人に思えていた工藤の中にある子供っぽさがたまに垣間見えるようになった。
パーティや宴会が嫌いですぐ逃げる、検診が嫌い、病院が嫌い、ってまんまガキじゃんね。
注射嫌い歯医者嫌いな俺と五十歩百歩? 大同小異?
工藤も飲んだので、車は店の駐車場に置かせてもらって別荘まで歩くことにした。
「うわ、やっぱ、こっち涼しい!」
工藤はトランクからカートを取り出してカラカラと引き、良太はバッグを背負って歩きながら、満ちる寸前の月が煌々と見下ろしている空を見上げた。
ずっと仕事が手一杯で疲れもたまっていたのだろう、部屋に落ち着いてシャワーを浴び、スウェットの上下を着た良太はテレビのリモコンを持ったままうつらうつらしていた。
シャワーで汗を流した工藤はバスタオルを腰に巻き付けただけで、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルトップを開けた。
つい春までこの部屋には年代物の冷蔵庫が置いてあったが、いい加減壊れたと平造から連絡があり、ダークブラウンで部屋に置いても違和感のない最新式に換わっていた。
良太の手からリモコンを取り上げてテレビを消すと、上掛けをかけてやり、工藤は隣にもぐりこんだが、「わあっ」と声を上げて良太が起き上った。
「何だ、いったい?」
眉を顰めて工藤が見やると、良太は「あれ?」と口にして、はあ、と息をつく。
何だ夢か。
工藤の車が襲われるとか、演技でもない。
「怖い夢でも見たのか? 坊や」
その言葉にムッとした良太は、「何だよ、あんただって、ぼっちゃん、のくせに!」と言い返す。
「そんなに元気なら、相手をしてやるぞ?」
ニヤリと色をまじえた笑いを浮かべて工藤は良太を引っ張りこんだ。
「あんたこそ、こういう時は元気だよな?!」
良太はジロッと睨んでみせるが、その間にも工藤は良太からスウェットをちゃっちゃか脱がしにかかる。
裸の良太に覆いかぶさりながら工藤は良太の唇を食んだ。
熱を持った固いものが良太の腹にあたっているのに気づくと、工藤が自分を欲しがっているのだと思うだけで良太の身体の奥が俄かに疼き始める。
工藤の指と唇が良太の身体を嬲るうちに良太は上ずった声を上げ、冷たい液体が塗りたくられたそこから工藤が押し入ってくる。
ぞくりとしたものが良太の背中を走り、工藤が突き上げるたびに良太の身体は悦び喘ぐ。
夏の夜だからか東京を離れて二人だけでいるからか、解放感のようなものが良太を工藤をも煽り、良太はやがてわけがわからなくなるまで、おさまらなくなった工藤の動物的な欲に掻きまわされた。
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