千雪さんとか、付き合い長いんだから、もうちょい考えたっていいだろうが。
そんなことを考えた時、あっと思い当たる。
「ひょっとして、千雪さんとか来るから、きらいなパーティとかも行こうって思ったんだろ?」
ついうっかり、杉田の前だというのに、良太は口にしてからしまったと思ったがもう遅い。
そんな良太のヤキモチなどお見通しとばかりに、フンと工藤は鼻で笑う。
なんだよ、タレントが風邪でスケジュール狂わせたとか怒ってたくせに、時間が空いたのならちょうどこっちに来られるとか思ったんだ、と工藤にムカついた良太はコーヒーをかぶりと飲んで、あちっ、と慌ててカップから口を離す。
「あらあら、良太ちゃん、火傷しちゃったの? 大丈夫? 少し冷ましてから飲まないと」
杉田が心配顔で良太を見た。
「あ、大丈夫っす」
ひりひりするのが少し落ち着いてくると、良太はミルクを入れて飲み直した。
「散歩がてら俺、車とってきましょうか?」
食事を終えて、しばし杉田さんとテレビのワイドショーをぼんやり見ていた良太は、カンパネッラに置いてきた車のことを思い出した。
「そうだな、腹ごなしに俺も散歩でもするか」
新聞を畳みながら立ち上がった工藤は、白い七分丈シャツにブラックデニムを履いている。
良太が時々、クソ、と思うのは、良太がこのアイテムを選ぶとシャツが浮いて見えるし、ガタイの大きさもあるが胸板の厚い鍛えた中身の工藤なら着こなせるという事実だ。
「ちょ、待って、着替えてきます」
良太は二階にあがって、Tシャツとデニムにパパっと着替えて降りてきた。
工藤が散歩とか珍しい。
そっか、今日は例のタレントが風邪引いたおかげで工藤にとっては予期せぬ休日になったわけなんだ。
歩いてカンパネッラに向かうと、レストランはまだ開店前だったが、吉川が外を掃除していた。
「おはようございます」
吉川の方から二人を見つけて声をかけてきた。
「おはようございます。車、ありがとうございます」
「いつでもどうぞ。うち、駐車場は広いんで」
掃除用具を片付けながら、吉川は良太に笑った。
確かに、店の隣の駐車場は十台ほど置けるようになっている。
平造の話によると、もともと親の土地で前は空き地だったところを、息子の吉川が借りたということだった。
吉川の家も近所にあるが、この店を建てるにあたって二階に自分の部屋も作ったらしく、カンパネッラは吉川の住居兼店舗である。
工藤が車を出す時、店の前の吉川がちょっと頭を下げた。
「カメヤ行けばいいっすよね、カメヤなら何でもあるし」
助手席に陣取った良太は、そうだ、と思いついた。
スキー合宿で軽井沢に来た時に京助らと一緒に良太も買い出しに行った大型スーパーだ。
何でもありなので、以来たまに出向いている。
高級食材から生鮮食料品まで豊富に揃い、地元民も使うが、どちらかというと別荘族御用達といったほうがいいだろう。
「大型スーパーに行くのにワクワクするとか、幼稚園児くらいだと思ったが」
アクセルを踏む工藤がボソリと言う。
「大人でも楽しいもんは楽しいんです!」
大人、を強調して良太は抗議したが、確かに子供の頃は母親と一緒に大きめのスーパーに行ったりすると、テンションが上がって走り回ってしまうような子供だった。
けっ、どうせ中身は変わってませんよ。
スーパーカメヤはとにかくスーパーというより商業モールのような感じで、イートインできるカフェも入っていれば、ペットのトリミングの専門店も敷地内にある。
酒の品ぞろえも超がつく高級品が棚に置いてあるし、デリカテッセンやベーカリーに並ぶパンが見るからに美味そうだ。
もちろんパティシェリーも入っており、そこのプリンが美味しいとプラグインの藤堂が言ってたのを思い出した。
カートを押しながらまず酒を物色している工藤が、ふと良太には新鮮に映った。
工藤と一緒に買い物、しかもスーパーを歩くというのは初めてだ。
しかめっ面でワインを選んでいる工藤の横で、ハムやチーズの並ぶケースを覗き込んで、良太はゴルゴンゾーラやモッツァレラチーズ、生ハムなどをいくつかかごに入れた。
工藤は選んだワイン、テタンジェ二本とブーヴクリコを三本、カートに入れた。
「美味しいプリンがあるんですよ」
酒のコーナーを出ると、良太はそう言ってパティシェリを目指してカートを押した。
工藤は仏頂面で後についてくる。
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