鬼の夏休み9

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 パティシェリ・ブランはプリンやチーズケーキが有名で、多くのセレブ御用達らしい。
 プリンとチーズケーキを十個ずつと杉田用にも三個ずつ買った。
「そんなに買って誰が食うんだ?」
 見るからに嫌そうな顔で、工藤が聞いた。
「お子さんもいるし、お子さんじゃなくてもみんな好きですよ、きっと。あ、こっちは杉田さんに」
 どうせ支払いは工藤なので、良太は遠慮なく買った。
 レジで工藤は、ワイン三本を一本ずつ分けて袋に入れてもらっている。
「杉田さんに一本、急に頼んだからな」
 出口に向かいながら言い訳のように工藤は言った。
 駐車場で車のトランクにワインやプリンの袋を入れていると、「あ、良太やないか、と工藤さん」という声がして、振り返ると犬連れの小林千雪が立っていた。
「千雪さん、奇遇ですね」
 案の定だと良太は笑う。
「狭い街で、大抵行くとこ決まっとおるし、そう奇遇でもないわな」
「ですよね」
 世の中には著者近影などでモサモサ頭に黒縁メガネがトレードマークの推理小説家として知られているが、実はそれは世を忍ぶ仮の姿で、本人はこうやってデニムにネイビーのシャツをモデルのように着こなした美形だということは身近の人間しか知らない。
 美貌故に女子にも、男にまで追い回されたというトラウマから、千雪は東京に出たのを機に、近影のようないでたちで大学デビューしたという。
「今夜のパーティ、二人だけ?」
「ああ、はい、俺は急に言われたんでどういうパーティか知らないんですけど」
「どういうもただのBBQパーティ。綾小路では恒例みたいやけど、俺は虫とか寄ってくるんで、苦手や」
「当然、京助さんもいますよね」
「仕切るのはあいつやから」
 やっぱね。
 スキー合宿の時も京助が仕切って、スキーでは扱くし、掃除、料理など参加者にやらせるし、まさに合宿そのものだったが、何よりみんなで買い出しに行ったり、あと片付けをしたりするのも楽しかった。
 合宿にも連れてきていたが、京助と千雪は、大抵今千雪が連れているこのハスキーのシルビーと一緒に動くらしい。
 シルビーは青い目で見上げながら良太に鼻をこすりつけてしきりと尻尾を振っていた。
「良太、猫だけやのうて、犬にも好かれるのな?」
「はあ、何故か」
 良太はシルビーの目線でわしゃわしゃと撫でる。
「仲間だと思われてるんだろ」
 傍から工藤が茶々を入れる。
「ここまで散歩?」
 良太は工藤のからかいを無視して千雪に尋ねた。
「いや、そこのトリマーさん、巧いからシャンプーとトリミングやってもろて」
「ああ、あそこ、すごいですよね、ボルゾイとかでっかいプードルとか、猫もゴージャスなのばっか」
「セレブばっかやから、こいつはちょい場違いなんやけどな」
「いや、綺麗になると、この子、ほんとに銀色ですよね」
「普段、汚れてるからって言うんやろ」
 飼い主の千雪も磨くときれいなのに、結構無精なので、髪も伸びっぱなしの時もある。
 そこは飼い主に似たのか、トリミング済のシルビーは神々しいまでに銀色に輝き、もっふもふに仕上がっていた。
「そういえば、今夜どんなメンツが集まるんです?」
 良太は気になっていたことを千雪に聞いた。
 綾小路家のパーティだが、千雪は東洋グループ次期総帥と目されている紫紀の妻、小夜子の従弟で、何かというと呼びつけられている。
「うーん、今夜はそう堅苦しい人らは来ないんちゃう? 紫紀さん関係の身近なメンツらしいで。かたっ苦しい会長関係の財界人ら集るんは明日のパーティやろ」
「え、明日のパーティ?」
 聞いてない、と良太は思わず工藤を振り返る。
「顔だけ出してくれと言われてる」
 にこりともせずに工藤は答えた。
「ええ? 俺、これかあとジャージかいつものくたびれたスーツしか持って来てないですけど、俺は遠慮してもいいですよね?」
 良太は言外に嫌だと目いっぱい訴えた。
「明日も店は開いてるぞ」
 事も無げに言う工藤を良太は睨み付ける。
「今夜は六時くらいから始めてますよって、適当に来てください」
 気の毒そうに良太を見つめてから千雪はシルビーと一緒に去っていった。

 


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