春立つ風に131

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「柏木んとこには週何回か通っとる家政婦がおって、その家政婦が、長岡京市にあるライフナガオカいう介護老人ホームにちょくちょく出向いたんは、入居しとる柏木の父親に会いに行っとったらしい」
「つまり、柏木弁護士は、ボールペン数本を父親宛にその施設に送り、そのペンが家政婦から柏木弁護士に渡り、手島の殺害現場に置かれたというわけですね」
 良太は千雪の説明に頷きながら言った。
「まあ、警察もそのことはもう掴んどるはずや思うけど、昨日、山倉が柏木の家から家政婦と二人、車で出かけたんを尾行したんや」
「国道一六八号線で奈良の方に向かったのを尾行したんだが、途中で見失っちまって、その後もその路線沿いをあちこち走ってみたんだがわからずじまいで、結局ニュースの通りだ」
 千雪の話を引き取って、山倉が面目なさそうに言った。
「柏木弁護士は結局その奈良県生駒市の国道一六八号線沿いまで行って殺されたってことですか」
 良太は、はあ、とため息をついた。
「まさか、ボールペンを間違って置いたから、柏木弁護士、大石に殺されたとか? 今回ボールペンはなかったんですか?」
 良太の問いに、千雪は「殺害動機にするには弱いな」と苦笑する。
「一緒に燃えちゃったんかなあ、俺のボールペン」
「やったらまだええけど、工藤さんの指紋がついたボールペンが燃え残っとってみ、ヤバイやろ」
 言われて良太は、言葉に詰まる。
「ヤバイ! ボールペンのことわからないんですか?」
 良太は勢い込んで千雪を問い詰める。
「俺にわかるわけないやろ! まあ、一応また渋谷さんにわかれへんかどうか聞いてあるけどな」
「え、いつわかるんです?」
「落ち着け、良太」
 千雪に窘められて、良太は肩を落とす。
「大石のガキが、柏木弁護士殺ってから良太のボールペン使うつもりやったとか?」
 辻が言った。
「もし、良太のボールペンがみつかったら、状況的に手島の件も工藤さん、ってことになるな」
 山倉がそう言うと、みんながしばし黙り込んだ。
 いくら辻の仲間うちのネットワークがあろうと、さすがに京都府警の扱う事件内容までは知る術がない。
 そこへ『大いなる旅人』の撮影陣がエントランスからぞろぞろと戻ってきた。
 俳優陣も撮影クルーも一様に疲れた顔をしている。
 良太がそっちへ顔を向けると、工藤は相変わらず日比野と話し込みながら、エレベーターへと向かった。
 午後十時近いこの時間だと、どこかで食事は済ませてきたのだろう。
 工藤らがエレベーターに吸い込まれると同時に、森村がいつの間にか傍に来ていた。
「何か新しい情報あるか?」
 すぐに良太に聞かれた森村は黙って頭を振った。
「加藤さんに京都府警にハッキングしてもらうとか?」
 思わず良太が口にすると、「ほんまにお前、いざとなるとムチャぶりしよるな」と千雪が妙に感心する。
「なんなら俺、加藤さんに弟子入りします」
 良太の決意表明は「それはやめてください」と笑顔の森村に一刀両断にされる。
「ほんとにいざという時は、上司が動きますから」
 その時、千雪のポケットで携帯が鳴った。

 


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