春立つ風に133

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「辻の仲間が大石とそいつらしい男が一緒の車におるんを京都で見たらしいんや。残念ながら写真とか証拠はないんやけどな」
 一端口を閉ざしてから、千雪は続けた。
「警視庁組織犯罪対策部薬物銃器対策課長の篠原孝蔵」
 肩書の重さに一様に表情を硬くする。
「どこで見たんですか? 上司がなかなか篠原の決定的な証拠を抑えることができないって言ってました」
 森村にしては厳し気な口調だ。
「地元に根付いたネットワークのお陰や。けど、証拠いうやつがまだないからな、引き続き見張ってくれとる」
 森村の疑問には辻が答えた。
「はあ、けど、危ないことのないようにお願いしますよ。それにしても、工藤さんもショックですよね、きっと。柏木さんが殺されたなんて。ああ、でも、恋人がボールペンを盗んで実は自分を陥れようとしていたとか、それもやっぱショックか」
 何気なく口にした森村の発言に、しばし他の皆が良太の顔をチラリと見た。
 良太の方は、知るかよ! と眉間に皴を寄せて心の中で叫ぶ。
 頭ごなしに怒鳴りつけてくれた工藤への怒りはまだ完全に静まってはいなかった。
「柏木やけど、まだ京都府警は焼死体が柏木かどうか、断定でけんみたいやな。身元が特定でけん時の最後の砦が歯の治療やけど、渋谷さん情報では、柏木がかかった歯科医がわかれへんらしいね」
 千雪は話を目いっぱい方向転換した。
「って、いくら手入れがいい人でも、小さい頃に一度くらいは市内の歯医者にかかってますよね?」
 良太が小首を傾げる。
「それがや、柏木は俺の同じゼミの先輩になるわけやけど、宮島教授から聞いた話やと、一家は柏木が中学を出る頃までずっとロスアンゼルスに住んどったらしい。それ以降ちょくちょく渡米しとるし、向こうで歯医者にかかっとったとしたら探しようがない」
「ええ、それは俺もわかる。やっぱ、歯医者って怖いし、信頼できるとこっていうと、俺もニューヨークのかかりつけ医しか思いつかない」
 千雪の説明に、森村が自分のことを踏まえて賛同する。
「それにお前ら、重大なことを忘れとるやろ? 柏木は焼死体になったいう報道が出る前に家を出た時、家政婦と一緒やったんやで? 山倉が二人が乗った車を奈良に入る手前まで追っとる」
 千雪は唖然とする皆の顔を見ながら続けた。
「家政婦はどこへ行ったんや?」
「え、でも、その後でどこかで降りたとか?」
 一瞬の沈黙のあと、良太が言った。
「家政婦は長岡友子、四十歳、独身、京都市左京区のマンションに一人暮らしのはずだが、マンションには今人のいる気配はない。念のため、前に来てもらった人にとか言って紹介所に問い合わせてみたら、もう一月も前に一身上の都合でって辞めたらしい」
 山倉が家政婦についてきっちり説明し、携帯の画面で、柏木と長岡が車に乗る時のショットをみんなに見せた。
「警察がどこまで事実を掴んどるか知らんけど、まあ、紹介所に確認したくらいで終わりやろな。柏木と一緒に出掛けたことまで掴んどるかどうか」
 千雪が言った。
「え、じゃあ、まさか、車の中の焼死体って」
 森村が声を上げた。

 


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