春立つ風に136

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「え、じゃあ、部屋取りましょうか?」
 慌てて良太が立ち上がる。
「んなもん、こっち、空いてるんやろ? ここでええ。誰ぞ来る予定はないねんやろ?」
「来るわけないでしょーが!」
 つい、語気が荒くなる。
 千雪の気まぐれは今に始まったことではないが、何となく工藤と柏木とのことで同情されているようで、良太はきまりが悪い。
「じゃあ、とにかくフロントで一人追加してもらってきます」
 良太が部屋を出ていってすぐ、千雪の携帯が鳴った。
「何や」
 辻だった。
 千雪はベッドに横になったまま、電話を受ける。
「やっぱおったで。お前がさっきラウンジで撮った顔が駐車場に。SUVの中にも何人かおるらしい」
 すくと半身起こした千雪は、「良太が戻ってきたらその辺うろついてみるわ」と言うと電話を切り、今度は森村を呼び出した。
「悪い、休んどったとこ」
「何かありました?」
 森村は身構えた声で返した。
「あったいうか、これからあるかもいうか、駐車場に辻と山倉がおるねんけど、合流してほしいねん」
「Copy That!」
 威勢のいい返事とともに携帯が切れた。
 やがて良太が戻ってくると、千雪はコートを羽織り、「ちょっとコンビニ行ってくるわ。カードキー、もろた?」と手を出した。
「え、今からですか?」
「すぐそこにあったやろ」
「ええ、でも、俺も一緒にいきましょうか?」
「お前は明日東京戻らなあかんのやろ? ゆっくり休んどき」
 千雪はそう言うとカードキーをポケットにしまい、部屋を出た。
 良太はちょっと心配そうに千雪を見送ったが、風呂に入って明日の予定をチェックしようとバスタブに湯を張り、スーツをクローゼットのハンガーにかけると、どうしても気になって、タブレットを開いて逮捕された篠原関連の記事を追った。
 どうやら炎上した車の中の焼死体は、柏木だと断定されてはいないようだが、やはり柏木だとするに足りる証拠を掴んでいるのだろうか。
 昨秋、工藤が拘留された時、工藤は否認していたし、確かフルニトラゼパムが工藤の体内から検出されたことや、工藤が刺したにしてはシャツに返り血がなかったことなどから、工藤を起訴しようと警察が躍起になっていたにもかかわらず、容疑を固めるに至らず、警察が無能な動きをしている間に、千雪の指令のもと電光石火の勢いで加藤や辻、山倉ら猫の手の仲間が真犯人を捕まえたのみならず、もう一つの殺人事件も解決してしまった。
「やっぱ、千雪さん、ほんとに名探偵?」
 いや、警察に対する不信感や憤りが半端じゃなかったよな。
「そういや、車に乗ったのは二人だったって、千雪さん、つまりあの焼死体が柏木じゃないって言いたいわけか?」
 あらためて良太はさっきの千雪の発言を思い起こす。
「戻ったら聞いてみるか」
 良太がタブレットを前にそんなことを呟いている頃。
 千雪は駐車場を一人で歩いていた。

 


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