「あ、工藤さん、先日はどうも」
藤堂は工藤にちょっと頭を下げ、また良太に向かう。
「そこで、考えたんだが、どうかな? ぜひ次も何かやってみようよ。今度は良太ちゃんだけで。缶コーヒーなんかもやることになりそうなんだよ」
そんな言葉で唆す藤堂に、「いや、俺はもう……」と良太が断りかけた時だ。
「いいか、良太は俳優でもタレントでもない! 今度くだらんことをぬかしたら、きさま、出入り禁止だ! わかったか!」
怒鳴りつけるなり工藤は荒々しくオフィスのドアを閉めて出て行った。
その勢いに、藤堂は思わず後ろに飛び退った。
たまたま出かける前にオフィスに顔を覗かせた工藤に出くわしたのが運が悪かった。
反論を許さぬ剣幕でとてつもない雷を落とされた藤堂は、しばし呆然。
「こえ~~」。
それを傍観していた秋山がくっくっと笑う。
「よほど虫の居所が悪かったらしい。災難だったね~、藤堂さん」
確かに頭ごなしに言われると腹も立つが、もし自分に、俳優になりたいとかタレントになりたいとか、そういう意思が少しなりとあったとしたら、工藤も闇雲にダメ出しはしなかったと良太は思う。
あいにく良太にはそういう気はないし、せっかくプロデュースという仕事の片鱗に携わらせてもらったのだから、これからも続けていきたいと思っている。
まあ、万が一、億が一でもありそうにないが、大リーグで投げるという夢を完全に捨てたわけではないにせよ、工藤さんに続くんだからなっ! というのが今の良太の固い決意なわけだ。
「参ったな~、わかりましたよ」
大げさに肩を竦めた藤堂は「じゃ、またね、良太ちゃん」とすごすごと帰っていった。
仕事を上がって部屋に戻り、久しぶりにゆっくり風呂につかった良太は、パジャマのまま冷蔵庫から缶ビールを取り出してテレビをつけた。
自分が出ているあのCMはまだ当分流れるらしい。
まるで音あてクイズのように、聞き慣れた音楽が始まるとすぐ、良太は恥ずかしくて見ていられずにチャンネルをかえる。
どこでかぎつけたのか、CMのオンエアが始まってすぐのあたりからオフィスにかかってくるようになった、『あのCMに出ているタレントは誰?』という電話にはさすがに良太も閉口していた。
「申し訳ございません、それにつきましてはお答えできません」
オフィスにいる時はもちろん良太も電話を取る。
自分のことをいかにも他人のような顔でそう答えていたが、そのうちしつこい相手に、『彼は演劇の勉強にニューヨークに行ってしまいまして、実は日本にいないんです』などと応対していると、たまたま居合わせた嘱託カメラマンの井上俊一に大笑いされた。
「どこがニューヨークだよ、電話に出てる本人が。ははあ、うちの御大のご命令かぁ。恋する健気男子のハートは複雑ねっ!」
「るせーっ! 用がないならとっとと帰れよ!」
俊一もアスカも面白がってからかうが、一時はじゃんじゃん電話が鳴って、仕事にならなくてまさしく冗談ではなかった。
最近はそれでも少しはおさまっているのだが。
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