「河崎さんちでやるらしいんですけど、アスカさんも行きたいって言うし、秋山さんと一緒ならかまいませんよね?」
苦々しさを噛み殺して、工藤は煙草をくわえた。
一対一でなくとも気にはなる。
「羽目をはずすなよ。アスカにもよく言っとけ」
「わかりました」
言葉が途切れる。
工藤が何か言おうと思っているうちに、車は会場となっているホテルに近づいていく。
信号で車が停った時、工藤は口を開いた。
「お前、タレントの仕事がやりたいのなら、俺に遠慮することはないぞ」
良太は思わず工藤を振り返った。
「何ですか、それ!?」
「言った通りだ。そっちの方が金も入るだろう。俺に気兼ねして、意に沿わない仕事をすることはない」
「申し訳ありませんけど、俺、社長に全然気兼ねなんかしてません。最近すごく裏方としての仕事が面白くなってきたし、前にも言いましたけど、俺はタレントなんかやる気はさらさらありませんから!」
良太はカッとなって、言い返す。
と、後ろの車がクラクションを鳴らした。
信号が青になっていたのだ。
良太は慌ててアクセルを踏む。
ムッとしたまま、ホテルに着くと、エントランスに車をつけた。
「まあ、よく考えろ」
そう言い残して工藤は車を降りた。
「何なんだよ、チクショー!」
乃木坂へと車を走らせながら、良太は一人喚く。
街の灯りがかすむので、慌てて涙ぐんでいる目を片方の手でこすった。
「俺は、タレントなんかやるもんか! そう言ってんだろ! 事故ったら、あんたのせいだ、バカ工藤!!」
悔しいのは、工藤にちっとも自分のことをわかってもらえてないからだ。
会社の駐車場に車を置くと、一旦自分の部屋に戻ってナータンにご飯をやり、そそくさとラフなスーツに着替えた良太は、交換用のプレゼントが入ったデパートの紙袋を手に、その店の前までやってきた。
「くっそ、やっぱやめた!」
地下のドアへと続く階段の前で、良太は思わず口にする。
「あんなオヤジ、知るもんか!」
歩きかけてまた足を止める。
ちぇ、と良太は舌打ちした。
踵を返し、タタッと階段を降りると、『OLD MAN』と書かれた重い木のドアを押す。
良太の顔を見ると、オーナー兼バーテンダーの前田がにこやかに会釈した。
ここも今夜はクリスマスイブだからだろう、わずかな席は埋まっているし、少しだけ音も華やいでいるようだ。
「今、いっぱいなんですが、どうなさいますか?」
良太がカウンターに近づくと、前田が聞いた。
