「あ、いえ、今日はその、ボトルだけ入れたいんですが」
意を決して良太は言った。
「ボトルは何になさいます?」
前田が聞き返した。
「えっと、工藤さんの名前で、マーテルのXO、お願いします」
工藤へのプレゼントはこうしようと昨日決めたのだ。
工藤が飲んでいた中で、良太の知っている酒といえラム酒以外でばこれしかなかった。
この『OLD MAN』は会社から歩いて五分ほど、工藤の行きつけの店で、良太も何度か連れてきてもらったりしている。
一度は、さっきの工藤への怒りでやめようかとも思ったのだが。
「クリスマスプレゼントですね」
悪気もなくそう言うと、前田はにっこり笑う。
「いえ、『お歳暮』です! 社長への!」
意地になって良太は言い直した。
そうだっ! お歳暮で十分だ、あんなヤツ。
「わかりました、お歳暮、ですね。こちらでよろしいですか?」
前田がマーテルのボトルを良太に見せる。
「すみません、ペン貸してください」
良太はそのボトルに、『お歳暮』と書き、また前田の失笑を買った。
「じゃ、お願いします」
良太はやることはやった、と店をあとにして、表参道のプラグインに向かった。
表参道駅で地下鉄を降り、紀伊国屋の前を通り過ぎて青学方面に歩くと、やがて、大通りに面してこ洒落た四階建てのビルが見えてくる。
銀色の外壁は小さく湾曲し、螺旋階段を上がった二階がプラグインのオフィスである。
一階は駐車場になっていて、青いプジョーとボルボが停まっていた。
ビルのオーナーは河崎で、三、四階はギャラリーとして自分の姉に貸しているという。
まずプラグインのオフィスに集合するようにと藤堂から連絡を受けて、良太はここにやってきたわけだ。
「やあ、良太ちゃん、寒いのに歩き?」
「こんばんは。藤堂さん、寒いのに今日も元気ですね~」
オフィスに入ると、藤堂の他ににこやかな笑顔の超美形がソファに座っていて、良太はドキリとした。
暖かそうにざっくりと編みこんだモスグリーンのセーターにジーンズとブーツ、長い髪を後ろで結わえたその人は、性別不明、年齢不詳、職業不詳という感じで、堅気ではない気がする。
ひょっとして、時々藤堂や浩輔さんの話題にのぼる麗しのクリエイターだろうか、と良太は合点した。
「あ、紹介しよう、デザイナーの佐々木さん。コースケちゃんの先生なんだよ。佐々木さん、こちら、青山プロダクションの広瀬良太くん」
藤堂が紹介すると、佐々木は立ち上がった。
「そうかぁ、君があの。浩輔ちゃんに言われてCM拝見しましたけど、思てたより、可愛いなぁ」
やはり、と良太は美貌の主の笑顔を見つめた。
「はあ、あの、はじめまして」
はんなり関西弁で、おっとりした雰囲気は好印象だ。
関西弁の男って、何でみんな美形なんだ?
つい千雪を思い出しながら、良太は根拠のない突込みを入れる。
「悪いね、俺は、ほら、まだ準備があるから、佐々木さんが送ってくれることになってるんだ」
藤堂は良太に言った。
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