「ああ?」
酔っぱらった顔で高津はそれでも怪訝な目を向けた。
「明日は別行動だ!」
「お前、何言ってんだよ」
チーズをぱくつきながら、高津は笑う。
「俺のおもりにきたわけじゃねーっつんだろ? 見たいものも違うし。明日、バチカン行ったら、お互い好きなもの見ればいいんだ。携帯あるんだし」
「んなこと、お前、できるのか?」
高津はにたつきながら聞いた。
「幼稚園児じゃねーんだ。二十二歳の大人が、そのくらいできないはずないだろう」
悠はタンカを切った。
「よし、わかった! ただし、電源入れるの忘れんなよ、携帯」
「お前こそだ!」
念を押す高津に、きっと睨み付けながら悠は言い返した。
翌日二人は朝早く、バチカン美術館に入館する行列に並んだ。
これでもかなり早く来たつもりだったが、世界中から集まってくる観光客の考えることは同じなようだ。
しかも、その行列を占める割合が多いのは、日本人観光客の団体さんに違いない。
「一応、その一番端の柱んとこで待ち合わせってことにしよう。何かあったら、携帯かけるかラインしろ」
「わかった」
意気揚々と確認し合うと、二人はシスティナ礼拝堂へと向かう。
『最後の審判』は二人とも見たくてしょうがなかったシロモノだから、人ごみにもまれながら、天井を仰ぎ見る。
「すげえ」
そんな感想しか出てこないが、悠は本物の迫力に圧倒される。
そして、あれはなんだろう、これは、と絵を追ってきた悠は、人の波に押されていつの間にか高津とはぐれていた。
「まあ、いいか」
ラファエロの『アテネの学堂』が面白いのは、中央の二人の人物がレオナルドとミケランジェロといわれていることだ。
ちゃっかり自画像なんかも入れているラファエロは結構ナルシストだ。
その甘い画風はさほど好きではないし、ミケランジェロほどの迫力は感じられないが、ラファエロの絵は説得力のあるものばかりだ。
ピエタやサンピエトロ寺院の内部をゆっくりと見ながら歩いたあと、絵画館でレオナルドのヒエロニムスやカラヴァッジョを、時間の流れるのも忘れ、悠は飽きることなく見つめていた。
背の高いお兄さんが閉館だから出るように、と言っているらしい。
言葉はわからなくても大概はシチュエーションや身振りでわかるものだ。
絵画館を出ると、悠は待ち合わせた一番端の柱の前まできてみた。
だが、まだ高津の姿がない。
おかしいな、と思い、携帯で呼び出すが、電源が入っていないか、というメッセージが流れる。
不安になりながら、しばらく待ってまたかけてみるが、やはり状況は同じだ。
「何だってんだよ!」
悠は携帯にあたる。
仕方なくラインにメッセージを入れる。
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