霞に月の8

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 二十七日は天気予報通り晴れていたが、少し出てきた風も手伝って地面に散った花びらが絨毯のように裏庭を桜色に染めていた。
「デリバリー、もう頼んである? シャンパン、モエとかブブクリコ、色々用意しといたから」
 花見と聞くと騒がないではいられないアスカはたまたま午後からオフになったため、早々とオフィスに出向くと、森村と鈴木さんがやっていた宴の準備を手伝って、酒を届けさせたりしていた。
 もっとも、ああでもないこうでもないというのが専門で、動くのは秋山だった。
「ただいま帰りました」
 夕方良太が帰ってくると、オフィスの大テーブルは夜宴用の料理や酒類、それに食器類で一杯になっていた。
「お帰りなさい。ねえ、工藤さん、もう日本に帰ってるよね?」
 良太の顔を見ると、すかさずアスカは聞いた。
「今、名古屋」
「フジタ? 今夜帰れるの?」
ボソリと良太が答えると、また聞き返してくる。
「言いましたよ、絶対顔を出せって」
「工藤さん間に合ってもらわないと、良太が上の空でせっかくの宴会が面白くないもんね」
 さり気なく揶揄してから、アスカは秋山と会場である裏庭の準備に降りて行った。
 良太は宇都宮からラインで脚本家の坂口とお邪魔するという連絡を受け取っていた。
 工藤とは腐れ縁の大女優、山内ひとみもフリーディレクターの下柳と一緒に行くからと時間を確認してきた。
「今夜だよな? 花見」
 ロケ地から電話をかけてきたのは、青山プロダクション所属俳優の小笠原だ。
 絶対、時間までには帰るからというのだが、何だって今年はたかだか会社の裏庭の花見に、皆が命かけてるんだろう、と良太は思う。
 一階の駐車場から裏庭に通じるドアがあるが、今年は昨年より来客の人数が増えたので、裏庭とはガラスで仕切られている数台分の駐車スペースに大きなテーブルを設置し、そこに料理や食器類を置いて、各々好きに持って行ってもらうようにした。
 いくつか椅子も設置し、もう一つ置いたテーブルには来客の持ち物を置いてもらうので、この日のために警備員を一人ここに常駐してもらうことになった。 
 夜宴開始は午後七時。
 大体準備が整うと、良太は自分の部屋に上がって猫のご飯を用意したり、着替えたりしてからまた下に降りて行った。
 所属俳優の南澤奈々や志村嘉人もたまたま近場での仕事だったので、それぞれのマネージャーを伴って顔を出すと言う。
「ほんと、やけに大々的になったよな」
 良太は裏庭を眺めながら呟いた。
「平造さんも来られたらよかったのにね」
 鈴木さんが言った。
「ですね。丹精したの、平さんだし」
 年々立派になっていく三本の桜は、近くを通りかかった人も思わず足を止める程きれいに咲いている。

 


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