霞に月の9

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 カメラマンの井上がライティングをチェックしていると、井上の妻であり、元このプロダクション俳優の小野万里子が駆けつけて最初の客となった。
「きれいねえ」
 しばらくものも言わずに桜を眺めていた万里子が、ため息とともに口にした。
「菊さんも来るって言ってたんだけど、入院されてるおばあさまの具合がお悪いらしくて」
「そうなんですか」
 良太は神妙な顔で言った。
 菊さんというのは、万里子のマネージャーで菊池というやはり小田事務所から紹介されたこちらも元この会社の社員だ。
 陽気な性格だがよく気が付く真面目な人だ。
 会社を立ち上げて間もない頃はそれこそ人手不足などというものではなく、業務が立ち行かないくらいな状況だったため、工藤は二人を独立させたらしい。
 良太が入社する前のことだから、万里子から聞き齧っているだけだが、工藤は徹夜続きだし、まだ鈴木さんもいなかった頃は万里子が電話を取ったりもしていたと聞いている。
 鈴木さんと菊池は仲がいいし、また鈴木さんと相談してお見舞いに行けるようなら行こうと良太は心の中にメモをする。
「あら、タイバー可愛い。ストライプの色明るくていいわ」
 目ざとく万里子が良太のネクタイに目をとめた。
 へへへ、と良太は笑ってごまかしておく。
 さっきも、人の来ないうちにと秋山と花を堪能しているアスカに見つかって、フーン、工藤さんからのプレゼントか、などと、見透かしたようなことを言われたばかりだ。
 果物類を買いに行った森村が、鈴木さんが綺麗に盛り付けた大皿を持って降りてきた。
「うまそう!」
 トングをつけてラップをかけてあるメロンやイチゴ、マンゴーやキウイなどがぎっしり取りやすい大きさで並んでいる。
 鈴木さんもやがて降りてきた頃、やってきたのは山内ひとみと下柳、それにひとみのマネージャーの須永だ。
「あらあ、良太ちゃん、久しぶり!」
 しっかりハグされながら良太は「いらっしゃいませ。ひとみさん、ドラマの方もよろしくお願いします」とすかさずつけ足した。
「もお、仕事の話はヤボよ! 高広じゃあるまいし」
 どれほど厚化粧かと思われがちなひとみだが、化粧は薄目だし、香水も控えめだ。
 ただし、アクセサリーはとんでもなものをつけていたりするので、気をつけなくてはいけない。
 以前、須永と一緒に飲みに行った帰り、良太を送ってきたひとみは、猫のトイレにピアスを落として行ったことがある。
 見つかったからよかったようなものの、部屋には高級なアクセサリーをつけて入るとかやめてほしいと良太は心から思った。
「おう、良太ちゃん、今年もきれいじゃないか。旨い酒が飲めそうだな」
 一緒に来た下柳は無精髭にくたびれたシャツ、ジーンズといういつもの出で立ちだが、もう触角は酒に向いているらしい。
 須永がひとみからの差し入れだと、ワインを鈴木さんに渡している。

 


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