真夜中の恋人65

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    Act 9
  
 
 上野のコンサートホールで行われた桐島恵美のリサイタルは、なかなか前評判もよくぎっしりと席はうまっていた。
 東京音大からコンセルヴァトワールに留学、ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門で優勝し、他コンクール上位入賞数回という桐島の経歴を千雪が知ったのはプログラムを開いてからだ。
「こんなすごい経歴やとか、春に京都で集まった時も、誰も言わんかったで」
 プロフィールを眺めてぼそりと千雪が口にした。
「あいつらに言うたかて、それってなんぼのもん? くらいやんか。ええんや、それで」
 それに答えたのは、右隣に座る三田村だ。
「ああ、まあ、そうやな」
 桐島の家は千雪の家からは少し離れているが、恵美はあの辺りの者なら誰もが知っている桐島建設のお嬢様だ。
 三田村の父親も大阪に本社がある確か大きな建設会社の社長と聞いたし、三田村家も大きな旧家で、今はあの町の住人ではないが、両親ともにあの町の出身なせいか、小、中、高と千雪とは幼馴染みで、何かというとみんなの先頭に立ってやっていたのが三田村だ。
 どちらかというと興味のあること以外ぼんやりな千雪より、あの町のことには詳しいかもしれない。
 同じ高校の同級生となればどんな有名人だろうと、あの町に帰れば仲間なのだ。
 春に帰省した千雪自身、身をもってそれを感じたものだ。
「でも、千雪ちゃんたらこちらにきてから、お友達といえば綾小路さんしかいないみたいだったから、幼馴染の三田村さんがこちらにお住まいになるんですもの、よかったわね、千雪ちゃん」
 おっとりと微笑むのは、その三田村の隣に座る小夜子だ。
 京助が千雪と小夜子を伴って会場に現れると、この二人の美貌の主に一気に視線が集中した。
 千雪はその視線を感じて嫌がったのだが、天然な雰囲気の小夜子は、千雪とその周りの人間以外目に入らないらしい。
「お友達て、小夜ねぇ、いくら何でも子供やあるまいし………」
「大丈夫です。千雪のことはこの俺にお任せ下さい」
 千雪のぼやきを無視して、小夜子にしっかり宣言する三田村を千雪の左隣に陣取った京助は険のある目で睨みつけている。
 そんな彼らを少し離れた席で観察せざるを得なかったのは速水だった。
 今までお目にかかったことがない程の美貌の主が小林千雪とわかってから、千雪を敬遠気味になり、今ひとつ自分らしさを欠いていた速水だが、その千雪によく似たこれまた美女が一緒に現れたのだ、驚いたなどというものではない。
 演奏会が終わったら、あの美女の正体と千雪との関わりを京助に問いただしてやろうと思っていた矢先、隣に座った文子が千雪たちに気づいた。
「あら、あの方、確か大和屋のご令嬢だわ」
「えっ、文子さん、知ってるのか? 大和屋って?」
「日本橋にある老舗の呉服問屋さんよ。原小夜子さんとおっしゃるの。聖真女子付属の頃からお美しい方だって評判だったのよ。雑誌社が勝手に隠し撮りしたことがあって、その時は学校側と揉めてたみたい。うちの高校と近かったし、男子の憧れの的だったもの」
「へえ……」
 そんな美女が何故小林千雪と一緒に?
 速水の中でまた一つ疑問が増えていた。

 


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