月澄む空に129

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「何を言ってるんだ。斎藤さんにせよ、坂口さんにせよ、なんだかだといつも理由をつけて周りを動かしてるのはお前だろうが。今回の話ももとは今年の東洋グループのCMプロジェクトの成功で、宮下さんが佐々木さんにやらせたいと思ったのが発端のようだが、お前の研修の話が紫紀さんに伝わったことで、ことは大きく動いたんだ」
「はあ? 俺は斎藤さんや坂口さんを動かすなんて大それたことした覚えはありませんよ」
 良太は言い返すのだが、無自覚なところが良太の専売特許なのだと工藤は苦笑する。
 この俺すら動かしているのもわかってないんだからな。
「あの、何か飲みます? ってビールか炭酸しかないけど勝手にどうぞ。俺、シャワーまだなんで入ってくるんで」
 ようやく二人して突っ立って話をしているのに気付いたように、良太はそそくさとバスルームに向かう。
 何だって? 研修三か月って話だったよな?
 プロジェクトが始動したら、ニューヨーク行ったり来たりって、えええ?
 良太はさっきの話を頭の中で反芻して、それは結局ニューヨーク滞在が長くなることだろうと改めて思う。
 それって、つまり、工藤とあんまり会えなくなるってことじゃんね。
 少なくとも最初の三か月、電話だってロクに話もしないで切っちまうやつだし、ビデオなんかわざわざ使わないよな、工藤。
 三か月も顔を合わせなかったら、俺のことなんか忘れて誰か他の相手いたりして。
 あーあ、沢村なんかより俺のがずっと可哀そうじゃんね。
 考えると段々、どよーんと胸のあたりが重くなってくる。
「三か月とか、やっぱ長いよな」
 良太はシャワーのレバーを押し上げて頭から湯を被った。
 その時、ドアの向こうで音がしたが、工藤が冷蔵庫からビールでも取り出したのだろうと良太は思った。
 途端、バスルームのドアが開いた。
「うわっ! 脅かすなよ! クライムドラマのストーカーかと思うだろ!」
 だが次には引き寄せられて唇を塞がれた。
「誰がストーカーだ」
 肩からバスローブが落ちて湯がかかるのも厭わず、工藤は良太を啄んだ。
 三か月が長いとか、お前が言うからストーカーにでもなるんだろうが。
 良太の独り言を耳にした工藤は、三か月は長いなと改めて思ってしまった。
 何がといって、そんなに長い時間、良太の顔を見なかったことはなかったことを思い知ったのだ。
 何だかだ文句を言いながらも、オフィスに帰れば良太がいる、それが当然だったはずだ。
 それを考えると焦燥感が工藤の身体の奥にある劣情を炙る。
 以前、良太をドラマに出す出さないで、商品価値がないなどと工藤が心にもないことを口走ったのは、良太を誰かの目に晒したくなかったからだ。

 


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