「だって工藤さん! 良太だって鴻池さんに言われてよかれと思って!」
鬼の怒号にも屈しないアスカが良太に駆け寄って、工藤に抗議する。
「撮影が終るまで、他の仕事はしなくていい。言っておくが、失敗なんてことは金輪際許さないからな」
捨て台詞を残し、工藤はブリーフケースを掴んでたったかドアに向う。
「ちょっと待ってください、工藤さん」
「これからスポンサーとの打ち合わせだ。連絡は入れておく」
秋山が声をかけるが、聞く耳を持たず、工藤は出かけてしまった。
アスカに肩を抱かれた良太が椅子に何とか座ると、鈴木さんも大きく溜息をついて良太を見た。
「横暴よ! 一方的に怒鳴り散らしてひどすぎる!」
まだぷりぷりとアスカは怒っている。
「仕方ないさ、良太の立場上、鴻池にたてつくわけにもいかなかったんだ」
良太は秋山の発言に苦笑した。
「まあまあ、可哀想に。工藤さん、ちょっと苛ついてるのよ。いろんなことがあったから」
鈴木さんが慰めてくれるのはわかる。
けれど、これまでどれだけか怒鳴りつけられることはあったが、今日の工藤の目は今までになく怒っていた。
どこか侮蔑を含んだ、芯からの怒りのように思われた。
そう、だよな。
俺ごとき、工藤にでかい借金があるってのに。
身の程知らずにもほどがある、工藤の目はそう言っているように良太には思われた。
「越権行為だよな……たかが、運転手の分際で」
「バーカ、工藤さんはそんなこと思っちゃいないよ」
秋山が苦笑いする。
「俺、やっぱりバカだ。ど素人がぶっつけ本番演技なんてできるわけないのに」
ポツリと良太は口にする。
「弱音吐くんじゃないわよ!」
すっかりしょげ返った良太に、アスカがピシリと言った。
「自分でやるって以上は、きっちりやんなさいよ!」
「でも、CMはセリフなかったけど、今度は、シーン二つでもセリフあるんだよな」
はああ、と良太は大きくため息をつく。
「あたりまえじゃない! わかった、特訓よ、良太! こうなったら、完璧にこなして、工藤さん見返してやるのよ!」
アスカは一人息巻いている。
「うん……。でもな……」
工藤が他の仕事をやらなくていいというのは、生半可なことではできないということだ。
しかも失敗は許されない。
やっぱり自分は受けるべきではなかった、と良太はあらためて思い知る。
「何よ! らしくないわよ、良太! いつもの良太なら、やったろうじゃん、でしょ!」
だが、今回ばかりはさすがに良太も現実を無視するわけには行かなかった。
とりあえず、全力でやるしかない……か。
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