Moon Light13

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 良太の出るシーンはほんの数カットだ。
 最初より増えたとはいえ、長いセリフもとっくに暗記しているのだが。
「学芸会じゃねーんだぞ」
 だが、そんな文句にも良太は言い返すことができない。
 どうにも棒読みに毛が生えた程度だ。
 わかってるって! 俺に表現力なんか求めるのが間違ってる!
 リテイクを言い渡されるたび、良太は肩を落とす。
「何よ、あんたたちだって、新人の頃はドヘタだったくせに!」
 大澤の言い草に堪忍袋の緒が切れたアスカがくってかかると、それだけで、撮影も中断だ。
「おい、アスカ、君までカッカきてたら、撮影にならないだろう」
 秋山に窘められ、アスカは肩を竦める。
「すみません…」
 良太は誰にともなく、ポツリともらす。
「コーヒー買ってきます」
「あ、あたしにもお願い」
 居たたまれなくなった良太が自販機まで行くと、今度はADたちが話している声が聞こえてくる。
「青山プロのやつらのやりたい放題じゃん」
「あの記事、マジらしいな」
 そんな中傷まで耳にすると、自分ができないことだけではなく、結局工藤にまで迷惑をかけていることが悔しくて仕方がない。
 だからこそ、俺にはめげている暇なんかないんだ!
 唇を噛むと、良太は煙草を吸いながら噂をしていたADたちの横へずかずか歩いていって、コーヒーを二つ買って戻る。
 俺次第で、決まるんなら、やるっきゃないだろ!
  

『俺はその辺に転がっている幸せが欲しいんだよ』
 そうヒロインに告げた恋人との破局。
 傷心を抱いたヒロインは日本に戻り、かつての音楽院の仲間で将来を有望視されていた青年を訪ねると、父親に残された小さな運送屋をやりながら、週一回、ピアノを弾いているというバーに、ヒロインを連れて行く。
『あなたはマエストロにも認められて、順風満帆だったじゃないの。それなのに、自分でそれを投げ出した。マエストロに目をかけてもらっているわけでもなく、コンクール三位に食い込むのがせいぜいのあたしが、いつまでもバイオリニストという地位にしがみついている。ばかげているわ』
『俺が投げ出したことと、君がバイオリニストとしての君にしがみつくことと、比べられるものではないよ』
『じゃあ、ここで、あなたは後悔していないと、断言できる?』
『後悔していない、とは言わない。だけど、やりたいことを断念したわけじゃない。ここでこうして俺のピアノを聴いてもらえることだけで、今はひどく嬉しいんだ』

 
 シーンは良太の中で、既に形を成していたのだが、口にするセリフが浮いてしまう。 
 うっとおしがる大澤流とは逆に、親しげに近づいてきたのは阿部由治というモデル出身の駆け出しの俳優だった。
 今回、良太がやっている役を降ろされたため、阿部は良太扮するところのピアニストの青年が週一回ピアノを弾くことになっているバーのマスター役に回された。

 


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