Moon Light14

back  next  top  Novels


 その日、二人の出番はとりあえず終わり、傷心の良太は阿部に飲みに誘われた。
 申し訳なさから良太はつき合うことにした。
「すみません、俺の役は、もともと阿部さんの役だったのに」
「お前が謝ることじゃないさ。俺はどんな役でも、とりあえずやれればいいし」
 優しそうな眼差しを向ける阿部は、最近CMなどにも出ているようだ。
「俺みたいな素人が、いきなり入ってできることじゃないのに」
「その通りさ」
 阿部が断言する言葉が良太の胸に突き刺さる。
「だから、いいんじゃない? 誰しも駆け出しは経験しているはずさ。のっけから完璧にやられたんじゃ、ベテランは立つ瀬がないだろう」
 笑う表情も穏やかだ。
 良太は少しだけ、肩の荷を下ろすことができた。
「そういえばさ、おたくの社長、やっぱあの女とできてたんだ?」
「え?」
「ほら、以前、噂んなってた、MBCの看板アナの室井淳子」
 たった今、ほっとしたばかりなのに、良太は心がざわめくの抑えることができなかった。
 室井淳子と工藤がまた業界の噂になっていた。
 一緒に食事をしていたのを見たとか、ホテルで見たとか、ワイドショーでも面白半分でチョコチョコと取り上げられている。
「あんなの、気にしないのよ! いつもの噂よ」
 アスカは沈み込んでいる良太を慰めてくれている。
 でも、今度こそもう終わりかも………。
 覚悟を決めなくてはならないなー、と、漠然と思う。
 工藤に断りもなく勝手に決めた良太を叱り飛ばした日から、ほとんど工藤は会社に寄りつこうともしない。
 ちぇ、どうとでもなれって気がする。
 良太は、そういえば、とCM撮影の時、藤堂に言われた言葉を思い出した。
「いいかい、良太ちゃんは、良太ちゃんそのまんまでいいから」
 リラックスして自分そのままで行こう。
 もうこうなったからには演技ではない。
 素のままの自分で。
 いつものオフィスだと思ってアスカと話せばいいんだ。
 どうせ工藤はこんな俺のこと、認めやしないんだし。
「カーーット!」
 ようやくOKが出たそのシーンには、ディレクターも案外満足した様子だった。
 今まで、自分をきっと煙たがっているんだろうと思っていた他の俳優も、よかったよ、と良太を誉めてくれる。
 ともあれ、何とかNGを出さないでよかったと、良太はほっと胸を撫で下ろした。
 大澤はやっぱりつんけんしていたが。
 良太の撮影はあと一カットを残すだけとなった。
 良太は仕事をやるなといわれてはいるが、オフィスにしか行くところがなく、幾度となく繰り返したセリフをぶつぶつ言いながら、電話も取ってしまう。
 やっぱり、工藤、俺の顔なんかもう、見たくないってやつ?
 
 
 
 
「今夜はご馳走様」
 レストランを出たところで、室井は嫣然と微笑んだ。
 工藤はずっと苦々しい顔を隠そうともしない。
「そういえば、広瀬って子、あなたのとこの」
「良太がどうした?」
 番組の打ち合わせのあと、室井に気になることを仄めかされたので、仕方なく食事に付き合ったのだ。
 フランス料理は高いばかりで味も何もわからなかった。
「あの子、最近、モデルの阿部ってのとつきあってるみたいね」
 寝耳に水だ。
「阿部?」
「共演してる子? バーでよく見かけるって。女がダメらしいって話よ。ちょっとイケメンだと思ったのにって、うちの女の子たちが文句言ってたの」
 しかも、またしても男か。
 このまま良太の部屋を強襲して問い詰めたい衝動に駆られる。
 良太のやつ、何考えてるんだ!
 しかし帰りのタクシーの中で、撮影が終るまでは待つしかないだろうと、工藤は苛つく自分をやっとの思いで抑えつけた。

 


back  next  top  Novels