劇愛という言葉も多佳子の口から聞けば頷けるかも知れない。
「父母には親不孝をしたこともわかっちゃいるけど、どうしようもなかった。でもね、やっぱり息子はともかく娘はうちの業界には置いておけないと思ってね、手離したのよ。父母は可愛がって育ててくれたのにね」
身の上話を聞かせるためだけではないだろうと思いつつ、良太は黙って老女の話を聞いていた。
「燃え上がると周りなんか見えなくなっちゃうとこだけは私に似たのね、ちょうど私と同じ高校卒業くらいの時よ、さぎりはでも、結局米兵に捨てられた上に子供がいるのがわかって、ウツっぽくなっちゃって、さぎりは弱かった………。あたしは遠巻きに見守るしかできなくて、高広が生まれて間もなく命を絶ってしまって………」
多佳子はそこで言葉を切った。
良太もそれを知った親や家族はいかばかりの心痛かとは思う。
「私や父母もがっくりだったけど、息子がね、嘆いてもう、カタギの家にやったのになんでだって言ってね。表だって会うことできなかったから」
息子って今の組長?
どういう境遇だろうと、身内のしかも自死とはつらいなんてものではないだろう。
「息子も娘も、ここが弱いんだよ。あたしじゃない、連れ合いに似たんだろうね。あの人、心根は優しすぎる人だったから」
多佳子は手を胸に当ててそんなことを言った。
「そこいくと高広は、あたしに似て実際息子より強心臓で、うちにもあんな肝が据わったやつなんかどこにもいやしない。できるもんならリクルートしたいくらいだよ」
まさかこの人、それが目的で?!
「工藤さんは心底反社会的勢力を嫌ってますから」
良太は言わずにいられなかった。
嫌っているというより憎んでいるのだ。
それを軽々しくリクルートとか言ってほしくはなかった。
「そんなことはわかってるわよ、イチイチ嫌なことを言ってくれるね」
多佳子はジロリと良太を睨む。
「こないだの冤罪事件も、実は島本組と芦田組の抗争に端を発した、工藤さんを陥れるために仕組まれたものだったわけでしょう? あなたが背後で中山会を牛耳ってるのなら、とっとと抗争なんかやめさせたらどうですか?」
すると多佳子は良太をじっと見つめた。
「ふーん、よく知ってるじゃないの。やっぱ良太ちゃん、ただ可愛いだけの坊やじゃないようね」
だが、そのあとまた多佳子は大きくため息をついた。
「残念ならが寄る年波で、あたしも力が及ばなくなってるし、そう簡単にはいかないんだよ」
フランケンとドラキュラは多佳子の後ろで黙ってただ立っている。
「でもねぇ、何の因果か、高広が昔付き合ってた娘、ちゆきって言ったよね、あの子とつきあってた頃はこれで幸せになれるって傍でみてても思ったのにね、まさか自殺するなんて」
多佳子は首を横に振った。
「母親のことは生まれてすぐの話で、高広も実感もないと思うけど、恋人に死なれちゃね」
ちゆきのことは良太も名前を聞くだけでもつらくなる話だ。
愛する人に自分で命を絶たれた日には、世の中も何もかも恨みたくなっても仕方がない。
「大体、あたしは政治家ってのが大っ嫌いなんだよ。そんなもんを親に持ったらまともな人間なら縁を切りたくもなるよ」
妙な論理だが、多佳子はそうやって工藤に逢えないながらも見守っていたというわけか。
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