月鏡53

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「もともと父親が私にくれたロンドン土産だったんだけどね」
 良太は驚いた。
 多佳子の用というのがそんなこととは思いもよらなかった。
 高価なものかどうかは別として、そんな大切なものを良太は手に取る勇気はなかった。
「待ってください、そんな大切なものを俺がもらうわけにはいきません。それに、あなたから俺が何かもらうってこと自体………」
 工藤の会社の社員が中山会から何かをもらうということは、工藤にとってまずいことになるのではと良太は思ったのだ。
「中山会のものじゃなくて、工藤家のものなんだろ? だったらいんじゃね?」
 逡巡する良太に京助が言った。
「さぎりの写真が入ってるだけだよ」
 多佳子はロケットを開けて中を見せた。
「もともと工藤が曽祖父からもらったってことにしちまえば、問題ねぇだろ」
 それでも良太は戸惑いを見せた。
「わかりました。でも俺がもらうわけにはいきませんから、お預かりして俺から工藤さんに渡します」
 良太はきっぱりと言った。
 多佳子はするとソファにもたれかかり、全く、と言った。
「良太ちゃんにあげるって言ってるのに、んとに強情な子だねぇ。まあ、いいわ。用はそれだけ。とっとと帰った帰った」
 多佳子は手で追い払うように言って、そっぽを向いた。
「ではお預かりします。失礼します」
 良太はケースの蓋を閉めるとしっかと持ち直し、京助らに守られながら部屋を後にした。
 ドアを閉める時、ちょっと振り返った良太に、多佳子の目が少し潤んでいたように見えたのは、気のせいだったろうか。
 確かに自分で蒔いた種とはいえ、これまで多佳子が工藤と顔を合わせたのは、たった一度、多佳子の祖母が亡くなる時、工藤の行く末を平造と工藤家の顧問弁護士に任せる時だけだったという。
 本来なら手元で育てたかっただろう娘を自分の父母に託し、さらに孫の工藤とも縁を切り、これまで一切の関わりを持たなかった。
 このペンダントは唯一、工藤の両親と自分を繋ぐ形見のようなものだったのではないか。
 今これを手離そうと思ったのは、自分の年齢を考えて、今しか渡せるタイミングはないだろうと思ったからに違いない。
 門の外で、車の中で待機していた千雪と加藤は、良太の顔を見てほっとした様子だった。
 良太は落ちていた携帯を渡されて、どうやら壊れていないのを確かめると、よかった~と胸を撫で下ろした。
 それからホテルに戻ると、また京助と千雪の部屋にみんなが一旦集まった。
 良太から連絡をもらった檜山もやってきて、今度は缶ビールで祝杯となった。
 ただ、さほど大騒ぎにはならず、どことなくみんながしんみりしていた。
「なんかさ、確かに相手は極道だけど、それを度外視すれば、ロマンよね~」
 ビールを飲み干してから、白石がしみじみと口にした。
「山の手のお嬢と極道の大恋愛! 小説なんかより大ロマンスだわ」
 両手を胸に充てて白石は大きくため息を吐く。
「淳史、お前、中山会の極妻に共鳴してんの?」
「だから、極道は置いといてッて言ったでしょ!」
 山倉に揶揄されて白石は言い返す。


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