月鏡54

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「どうせ人生一回こっきりじゃない? この際、世間にどう言われようと、愛を貫き通すっってところがいいんじゃない」
 白石は悟り切ったように言う。
「裏でヤバいことしててもかよ?」
「人間やってたらそんな人いくらもいるわよ! 断頭台に消えたマリーアントワネットだって、そうじゃない?!」
 フンと山倉は鼻で笑う。
「はあ、そんな大恋愛とか縁がないもんな、いくら憧れてもこの先まず、そんなのないと思え、淳史」
「うるさいわね!」
「確かに」
 白石に同調するように檜山が言った。
「そういうののほうが純粋な恋愛でいいよな。うちのおどろおどろしい跡目争いときた日には、ほんとウンザリだった」
 ため息交じりに檜山が続けた。
「え、あんたんち、お能の家元だっけ? 大変そう」
「兄貴の母親って、親父の愛人になって、兄貴を家元にするために兄貴を生んだんだ。祖父が親父を俺の母親と結婚させたんだが、財産狙いとか言われるし。愛もへったくれもなくて、俺が生まれたもんだから、俺と兄貴がじゃなくて、周りの連中がドロドロの跡目争い。母親も亡くなったし、とっとと俺、うち出て、縁切ってやった」
 淡々と実家の事情を話す檜山に、白石が、まあ、苦労したのね、と同情の目を向けた。
「そんな苦労とかはないけどさ、俺の周りには愛とかないから、工藤の祖母の大恋愛、羨ましいって」
 何やら先日の宴会から、白石と檜山はやたら意気投合している。
「こんなの預かってきてしまったけど、工藤さんに何て言おう」
 良太は千雪に事のあらましを話して預かってきたペンダントを見せた。
「へえ、年代物やな。アンティークて、これホンモノの石? 価値とかはわかれへんけど、魔女がそこまでして渡したかったってことは、工藤家にとっては大事なモンなんやろな」
「知り合いに鑑定してもらおう」
 京助が言った。
「せやな、ま、中山会とは全く関係のないもんやろし」
「あ、平さんならわかるんじゃないかな?」
 良太は顔を上げた。
 それには千雪は難しい顔をした。
「ああ、どやろな。平さんは、さぎりさんのことは知ったはる思うけど、魔女の昔のことはわかれへんちゃう? 工藤家の顧問弁護士って亡うならはったんやったな」
「確か今も、工藤家の財産に関しては、代替わりしてその息子さんが管理されてるって聞いたけど」
 平造から聞いたはずの記憶をたどりながら良太が言った。
「息子やのうて、当時を知ってる人とか、いてへんかな」
「藤原が何か知ってるかもな」
 京助が言った。
「ああ、藤原さんな!」
 千雪も頷いた。
「藤原さんて七十ちょっとやろ? 案外、魔女が藤原さんのマドンナやったりして」
「あの人、固すぎるんだよ。色恋とか関係ないみたいな顔してるし」
 千雪にそう返すと、京助は缶ビールを空けた。
「ホンモノのバトラーって感じやもんな。昔の映画に出てきたみたいな」
 千雪の話に、「あ、知ってる! The Remains of the Day、DVDで見た」と檜山が言った。
「藤原さんて、あんな感じ?」
 檜山が聞くと、「まんまや」と千雪は頷いた。
「すみません、ついてけません、ナニソレ?」
 半挙手した良太が口を挟む。

 


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