「やからお前、工藤さんの後継ぐんなら本、読み! 原作はカズオ・イシグロ、日本人でイギリスに帰化して、前にノーベル賞もろた作家おったやろ? 映画見るんでもええけど、ええ映画やで」
「はあ………そういえば、そんな人いたような………The Remains of the Day、ですね」
良太は首を傾げながら、携帯にメモる。
やっと能の演目をいくつか見て、理解しつつあるところなのに、まだまだ知識を上積みしなくてはならないわけか。
「あ、良太、モリーからライン」
良太が心の中で息切れを感じそうになっていた時、檜山が自分の携帯を見せた。
『外で見張ってましたが、無事帰れたようで何より。お疲れ様でした』
良太はそれを見て、森村も待機してくれていたのだとわかったが、波多野は多佳子に対してどう対処するんだろうと思う。
檜山はお疲れ、の文字の入ったスタンプを森村に丁寧に送っている。
今スタンプに凝っているようで、奈々ともちょくちょくラインし合っているようだ。
それにしても、と先日からの対応で、工藤が怒りまくるほど、波多野は多佳子のことをさほど脅威とは考えていないらしいと良太は結論付けた。
「ってか何で、匠にライン? 森村くん」
「さっき俺が電話したからじゃない?」
いや、匠という人も、さばけているというより、何だか可愛い。
白石と意気投合というところも面白い。
今回の騒動で良太は周りの人間に対する認識を新たにした。
京都から帰って猫たちと戯れながら、久々癒されたのも束の間、翌日からまたあっちからこっちから厄介ごとが良太に押し寄せた。
クスリで逮捕された水波清太郎関連のドラマやCMの撮り直しで引っ張りまわされ、沢村の件でも小田事務所の遠野からちょくちょく連絡が入る、パワスポ、レッドデータとスケジュールをこなし、さらに宇都宮の鍋パの夜がやってきてしまった。
良太が何とか宇都宮の部屋に辿り着いた時は、午後十時半を回ろうとしていた。
「やあ、待ってたよ、良太ちゃん。もう始めちゃってるけどね、ちゃんと良太ちゃんの分は取ってあるからね」
ご機嫌な宇都宮に歓待され部屋に行くと、リビングにふかふかの絨毯を敷いて、その中央に大き目の炬燵が鎮座している。
そして大御所女優山内ひとみとそのマネージャーが並んで座り、正面にはきついので有名な若手女優の竹野紗英が炬燵にもぐりこんでいた。
炬燵の上では大きな土鍋がぐつぐつと音をたて、そのいい匂いが良太の収穫を刺激した。
「ああ、腹、減った………」
吸い寄せられるように竹野の向かいに座ると、宇都宮が良太のためにアツアツの肉や野菜をスープごとよそってくれた。
「いただきます!」
乾杯もそこそこに、良太は鍋にありついた。
しばらくものも言わずに食べるのに夢中になっていた良太は、ようやく人心地がついたところで、改めてひとみや竹野にご機嫌伺いをした。
「まあ、飲みなよ」
竹野が良太にワインを勧めた。
「ありがとうございます」
「何か、水波ので、良太も振り回されてるんだって?」
竹野が笑いながら聞いた。
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