そして良太は男だ。
良太が工藤を狙った男に刺された時、良太の妹の亜弓が言い放った言葉が頭から離れない。
「おにいちゃんには将来があるんです。これから結婚したり奥さんや可愛い子どもと、ささやかでも幸せな家庭を作る権利はあるんです!」
工藤を見た時の亜弓の目。
能天気な両親とは違って、工藤の心の奥まで見通しているかのように、工藤を睨み付けていた。
だから良太がまたロケ現場で怪我をして倒れた時、亜弓が静岡から飛んできたと聞いて、また罵倒されるのも覚悟したのだが。
良太に言われて、慰労会で出席してくれた社員の家族それぞれに一言程度挨拶をして回った時、にこにこと楽し気な両親を横目にちょっと頭をさげたものの亜弓は工藤と視線を合わせないようにしていたかに見えた。
いや、おそらくそうだろう。
ロケで良太が怪我をしたことで、工藤に怒っているのかも知れないと思いながら、工藤にはおべんちゃらで機嫌を取るような高度な真似はできなかった。
「良太の両親は人が好過ぎる、フン、人に負債を押し付けられて何もかも失ったって言うのに喜んではとバスツアーに出かけていくような、俺には到底マネのデキない人間で」
「あらあ、良太ちゃんのご両親? らしいわね」
ふふっとひとみは笑う。
「ただし、妹の亜弓は、初めて逢った時から、まあ良太が刺されて入院って状況だったし、俺に突っかかってくるし、おそらく俺を信用できないと思ってるんだろう」
「タダのブラコンなだけじゃない? お兄さんを取られたくないっていう」
ひとみは軽く言い返す。
「俺は何も言ってないぞ」
「良太ちゃんはどうなのよ?」
聞かれて工藤は言葉につまる。
「どうって、言いようがないだろう?」
「高広がはっきりしないからじゃない?」
「俺に万が一の時は良太に任せるとは遺言書には書いてある」
ひとみは思わず工藤を凝視した。
「バカじゃないの? 誰があんたが死んだあとのことなんか知りたいもんですか。良太ちゃん怒るわよ? 生きてる高広じゃなきゃ意味ないじゃない!」
激高するひとみをチラリとみやり、工藤は茶を飲んだ。
須永はいつも通り、二人のやり取りは見ざる聞かざるを決め込み、もくもくと海鮮丼を食べている。
「秋山はアスカにとって重要なパートナーで、いずれ万里子のように独立する可能性もある。小杉と志村も劇団の頃からの相棒だから同じくだ。谷川は奈々にとってはガードとマネジャーを兼ねる存在だ。できれば秋山あたりには良太と二人三脚でやってもらいたいものだが……」
「だから! 今現在の話をしてるのよ! あたしは」
とりあえず海鮮丼を平らげ、お茶を飲み干してからひとみは続けた。
「形にこだわれとかは言わないけどさ、せめて何か約束を取り付けるとかさ、指輪とか、何かそういう」
「そんなもので良太を縛ってどうするよ」
工藤は鼻で笑う。
「縛るって何よ! 良太が可愛いんでしょ?」
工藤はそれには答えずにレシートを掴んで席を立った。
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