寒に入り33

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 店のスタッフは三人を見るとすかさず奥の和室に通してくれた。
 おそらく局からそう遠くない立地故に、業界人も結構顔を見せるのだろう。
 真新しい店内は、結構手の込んだ渋い作りになっており、ちょっとした料亭もどきな雰囲気で、夜はじっくり酒も飲めるようだ。
「それにしてもさすがですねえ、お二人とも。顔を見て大物だと判断して、店員さん奥の部屋に通したんですよね」
 工藤が店を一瞥してそんなことを考えていると、須永が感心したように言った。
「あはは、そうよねえ、この苦み走り切った顔を見て、後から来た客が逃げるかもしれないからとりあえず奥へって即座に判断したのよねえ」
 ひとみが須永の感心をそれこそ即座にぶった切った。
 須永はもう、小さく、はは、と誤魔化して、工藤の顔をみることもできず、海鮮丼に手を付けるしかなかった。
「ああ、また小林センセのドラマ?」
「秋あたりな。良太が竹野をオファーしたんで、何とか記念番組って頭につけることにしたのさ」
 ひとみに今日は何と問われて、工藤は会議の理由をかいつまんで話した。
「あらあ、最近、良太ちゃん、しっかりタズナ握ってるわね」
「ああ。この週末は社員とその家族を招いて慰労会だ」
 ボソボソと工藤は言葉を紡ぐ。
「慰労会? ほんとにやるの? どこで?」
 ひとみは声を上げて聞き返す。
「Aホテルに青山プロダクション御一行様で部屋を取って、慰労パーティにエステ、スタジオ見学、はとバスツアー、グアムかハワイあたりに旅行とかがいいんだろうが、俳優のスケジュールが難しい」
 海鮮丼をつつきながら工藤が説明すると、ひとみは「変われば変わるもんね」という。
「鬼の工藤が会社の慰労会? それもこれも良太ちゃんのお陰様様よねえ」
 工藤はフンと鼻で笑う。
 確かに、社員と家族が仲良しこよしでパーティとか、数年前の工藤なら考えもつかなかった。
 まあ、パーティなんぞ今でもごめんだが。
「ってことは良太ちゃんの家族も?」
「一家で来てる」
「あらあ、高広、ご両親にちゃんと話したの?」
 工藤は箸を止めた。
「何をだ?」
「って、ムリか」
 さすがにひとみも言葉を濁した。
 工藤にしてみれば、良太の家族を前にすると現実を突き付けられたようで言葉がなくなる。
 もっと若くて、将来有望な男であれば、意を決して息子さんと付き合っていますくらい言えないこともないかも知れない。
 だが、彼らは何も悪くもないのに知人の保証人になったばかりに家も工場も取られ、多額の負債を押し付けられた良太の両親は逃げるようにして熱海に行き、温泉宿で細々と働いている。
 まあ確かに、良太の言うように、この両親はなんて能天気なんだ、とも思わないでもない。
 逆に言うと、欲もなく、その時の境遇に文句も言わずむしろ楽しみながら、ささやかな幸せを大切にしている。
 しかも負債を肩代わりした工藤を心底有難く思ってくれている。
 もし、良太との関係が知れたら、沢村が最初疑ったように、肩代わりした負債を盾に取って関係を強要しているのだとも思わないとも限らない。
 第一金輪際何の関係もないとはいえ中山組組長の甥だ。
 いくら彼らが能天気でも、そんな相手に、もし仮に良太が女だとしても大事な子供を任せようなどと思うはずがない。

 


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